
日々、老い衰えていく自分であっても、もし「あなたは認知症です」「あなたは認知症予備軍です」と言われれば、平常心ではいられないのではないでしょうか。
認知症はつい10年ほど前まで「痴呆」と呼ばれ、「人生の終わりだ」「何もわからなくなってしまう」「徘徊でたいへんだ」と言われてきました。でも、いまやケアの対象から「主人公」へと変わっています。2014年、認知症の本人たちによる初の当事者の団体(JDWG)がついに誕生しました。塩崎厚労相や安倍首相と面談をして、政策を提言。いま、社会や地域、医療・介護の現場を変えようとしています。
本人同士が出会い、つながり、発信する。認知症の常識を変える「当事者の力」です。本書は、その試行錯誤の軌跡と最先端が綿密な取材をもとに、存分に描かれたルポになります。
日本で初めて「私はアルツハイマーです」と語った女性、「私、バリバリの認知症です」と講座をもった初の当事者・医師・作業療法士のトリオ、39歳でアルツハイマーと診断された男性、IT時代に「記憶はなくても記録が残せる」と工夫を発信する人、世界の先頭を走るオーストラリアやカナダの当事者……。
認知症の早期診断を受けた本人が、同じく当事者たちと出会うことによって、自分のなかにある偏見に気づき、人間観を仲間同士で問いかけあいながら、「深化する」、その意味で「希望の人びと」の物語になります。
本書は23年前に、「痴呆病棟」で取材を始めた朝日新聞記者が、ときに関連する部署から外れても、土日や休みをとって手弁当で地道に粘り強く取材し蓄積した事実から、本のかたちにまとめることができたものです。
著者は本書の刊行時には、「この取材を続けてきて、認知症が以前より怖くなくなりました。もしものときは、相談できる『認知症のプロ』の当事者が、こんなにいる、そう思えるからです」と語っています。
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