撮影:鈴木智哉

ケース1
私も夫もA国籍です。夫と私は一時期A国で同居しましたが、私は慣習、環境の違いに耐えられず、夫に事実上離婚を承諾してもらい、日本に戻りました(私はもともと日本国籍だったのですが、帰化したのです)。以来10年以上、夫とは音信不通で、所在もわかりません。日本で離婚裁判を起こせるでしょうか。

ケース2 
私は日本国籍で日本に居住しています。妻はB国籍でB国に居住しています。妻がB国で私に対して提起した離婚判決が確定しましたが、日本ではこの判決の効力は認められないそうです。私は日本で離婚裁判を起こせるでしょうか。

ケース3
日本国籍の私はC国籍の夫とC国で同居していましたが、夫から度々暴力をふるわれ、耐えられず、日本に帰国しました。日本で離婚裁判を起こせるでしょうか。

  ◎法案が継続審議中
日本人と外国人の夫婦間の離婚、日本に住む外国人夫婦間の離婚、双方日本人だが一方が外国に居住している場合の離婚など、渉外離婚といわれるケース(いわゆる渉外離婚事案)では、どの国の裁判所でその事件を扱うことができるかという国際裁判管轄権の問題があります。今回は、日本の裁判所に管轄権があるかという直接管轄の問題を取り上げます。
 日本の裁判所が、ある渉外家事事件の管轄権を有するかについては、明文の規定がなく、判例が先例とされてきました。現在、しかし、国際裁判管轄を明確に規律するため、家事事件手続法と人事訴訟法の改正案が2016年の第190回国会に提出され、2017年現在第193回国会でも継続審議となっています。
早々に改正法により明確に規定され実務も整理されると思われますが、以下では今までの裁判例を参考に解説します。

◎国際裁判管轄に関する判例

離婚請求の国際裁判管轄について重要な判例として、ケース1のもとになった、最大判昭和39年3月25日民集18巻3号486頁があります。この事案につき、最高裁は、「離婚の国際的裁判管轄権の有無を決定するにあたっても、被告の住所がわが国にあることを原則とすべきことは、訴訟手続上の正義の要求にも合致し、また、いわゆる跛行婚(引用者注:ある国では離婚が認められ、別の国では認められないという事態)の発生を避けることにもなり、相当に理由のあることではある。しかし、他面、原告が遺棄された場合、被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合においても、いたずらにこの原則に膠着し、被告の住所がわが国になければ、原告の住所がわが国に存していても、なお、わが国に離婚の国際的裁判管轄権が認められないとすることは、わが国に住所を有する外国人で、わが国の法律によっても離婚の請求権を有すべき者の身分関係に十分な保護を与えないこととなり(法例16条但書参照)、国際私法生活における正義公平の理念にもとる結果を招来することとなる。」としました。
すなわち、原則として、被告の住所地国に裁判管轄があるけれども、原告が遺棄された場合等には例外的に原告の住所地国にも管轄を認めるという判断です。

 ◎既に別の国で離婚判決が確定していても
もうひとつの重要な判例は、ケース2のもとになった最判平成8年6月24日民集50巻7号1451頁です。
この事案では、日本人夫とドイツ人の妻がかつてドイツで結婚し長女をもうけましたが、その後妻が夫と同居を拒絶するようになり、夫が旅行名目で長女を連れて日本に帰り、その後ドイツに戻っていませんでした。ドイツで妻が先に提起した離婚判決が確定しましたが、ドイツの判決が民事訴訟法118条2号の要件(敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと)を欠くため、日本ではドイツの判決の効力が認められませんでした。
上記の最大判昭和39年3月25日の基準にはあてはまりませんが、最高裁第二小法廷は、「当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当」として、ドイツでは既に婚姻が終了しているがその判決の効力は日本では認められず、また日本人夫がドイツで離婚訴訟を提起しても既に判決が出ている以上不適法とされる可能性が高く、日本で提起する以外に方法がない事情を考慮して、日本の管轄権を認めました。

例外的に日本の国際裁判管轄を認めた事例
各判例後、被告の住所は日本になくても、例外的に日本の国際裁判管轄が認められた事例がいくつかあります。
たとえば、ケース3のように、被告から暴力をふるわれて日本に帰国した事例で認められた事案がいくつかあります。新潟家裁新発田支部平成20年7月18日LEXDB2541598は、暴力だけではなく、被告が養育費を支払わないことや、原告が法テラスの援助を受けており被告の居住する韓国で訴訟をすることは事実上の障害があることなどを指摘して、日本の裁判管轄を認めました。