
撮影 鈴木智哉
ケース1
私はA国籍で、日本国内で日本国籍の夫と同居していましたが、その後別居しています(なお日本にいます)。夫に離婚訴訟を提起しました。準拠法はA国法ですか、日本法ですか。
ケース2
B国籍の私とC国籍の妻は、婚姻時日本に住み、日本での私の国の大使館に婚姻の届出をしました。長男もB国籍を取得していますが、私と同様、日本での定住者の在留資格を取得しています。妻は実家に長男を連れて行き日本の自宅に戻らず、私は妻を説得しにC国の妻の実家に赴きました。しかし、妻が応じないので、長男だけ日本に連れて帰りました。妻はその後C国からB国内に転居しましたが、1年に1回くらい電話をかけてくることがあるくらいで、居所も明らかにしません。妻との離婚を求めたいのですが、準拠法はどうなるでしょうか。
◎離婚の準拠法
渉外離婚の場合、前回取り上げた国際裁判管轄が日本にある場合でも、自動的に日本法が準拠法となるわけではありません。離婚や親権者決定等はその法律関係の性質ごとに、法の適用に関する通則法に従って、準拠法が決められます。離婚については、以下の通りです(通則法27条、25条)。
1 夫婦の本国法が共通する場合は、その本国法(共通本国法)
2 共通本国法がないときは、夫婦の共通常居所地法
3 共通常居所地法もないときは、夫婦に最も緊切な関係のある地の法律
ただし、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、日本法によります(通則法27条但書)。
そういうわけで、ケース1の場合、夫が日本に常居所を有する日本人ですので、日本法によることになります。
ケース2のもとになった横浜地判平成10年5月19日判タ1002号249頁は、原告は米国籍であり、被告は中国籍であるから、共通本国法は存在せず、また、原告は日本に定住者の資格で在留しており、その常居所は日本であるのに対し、被告は永住権を取得している米国のいずこかに住居所を有しているにすぎないから、夫婦の共通常居所地法も存在しない。そこで、夫婦に最も密接な関係がある地の法律によるべきところ、原告と被告が一時期日本で共同生活をしていたこと、原告と長男は日本の在留資格を有し、原告と被告が別居状態となった後も原告と長男は日本で生活して現在に至っているなどとして、密接関係地法は日本法であり、離婚の準拠法を日本法としました(通則法27条、25条)。
◎親権者の指定
親子の法律関係については、通則法32条は以下の通り定めています。
1 父又は母の本国法(父母の一方が死亡し、又は知れない場合は他の一方の本国法)と子の本国法が同一の場合は子の本国法
2 その他の場合は子の常居所地法
ケース2のもとになった横浜地判平成10年5月19日判タ1002号249頁で、長男は、米国籍を有していました。外国人登録原票上のアメリカにおける住所又は居所は、長男も原告もオハイオ州でしたので、長男の本国法をオハイオ州とみなして、オハイオ州の準則により、長男の親権者を原告と定めました。
◎本国法を決定する必要がある場合も
日本法を思い浮かべると、特に本国法を決定する必要がないようにも思えます。
ところが、アメリカのように地方により法律を異にする国(場所的不統一法国)や、インド、マレーシアなど人種・州境などによって人的に法律を異にする国(人的不統一法国)の場合、いったいどの法律を本国法とするのか、決定する必要が生じます。
まずは、その国の規則に従って指定される法律があれば、その法律が本国法となります。そのような規則がなければ、当事者に最も密接な関係のある地の法律が本国法とされます(通則法38条3項、40条2項)。
ケース2の事案で、長男の本国法をオハイオ州法としたのも、「当事者に最も密接な関係のある地の法律」と認めたからです。
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