禁じられた歌声 [DVD]

オデッサ・エンタテインメント

西アフリカ、マリ共和国の古都、ティンブクトゥ。少女トヤは、そこからほど近いニジェール川のほとりの砂丘地帯で、音楽を愛する父キダン、母のサティマ、牛飼いの孤児イサンとおだやかな日常を送っていた。それが、ある日突然、街全体がイスラム過激派のジハーディスト(聖戦戦士)に占拠され、そこでの人々の暮らしが一変する。過激派は、厳格なシャリア(イスラム)法に基づき、恐怖政治によって住民たちを支配しようとした。音楽が禁止され、笑い合うことも、タバコやサッカーですら、処罰の対象となっていく・・・。しかし、この理不尽さに、住民たちの静かな抵抗が止むことはなかった。そして日々、悲劇と不条理な懲罰が繰り返される中、あるときトヤの家族にも思いがけない出来事が起こってしまう――。

アフリカ西北部のモーリタニア出身であるアブデラマン・シサコ監督は、2012年にマリの北部にある町、アゲルホクで実際に起きた、イスラム過激派による若い事実婚カップルの投石公開処刑事件に触発され、この映画の制作を決意したという。フランスとモーリタニアとの合作となる本作は2015年、フランスで最高の栄誉とされるセザール賞で最優秀作品賞をはじめ7部門を独占し、アカデミー賞外国映画賞にもモーリタニアから初めてノミネートされた。不条理な暴力によって人々が支配されていく様や、それに抗い、人間としての尊厳を乞う人々の〈声を持たないものの声〉を、丁寧にすくいとり、非常に美しい映像と音楽で抒情的に表現した、胸に迫る作品である。映画を見ながら幾度も、理不尽な暴力に胸がつぶれる思いになったが、わたしにとって希望とも映ったのが、街の中でより弱者であるはずの女性や子どもたちの、ささやかな、しかし威厳に満ちた抵抗の姿だった。

「それって宗教も違う、遠くの国の出来事だよねぇ」と思われるだろうか。わたしには、決してそうは思えない。自分ならどうするか、何を守るのか、果たして声をあげられるか/どのように声をあげるかと、日々考えざるをえないことばかりが起きている世の中だからだ。日本に暮らすわたしたちは皆、すでに今、沖縄や福島で起きていることを持ち出すまでもなく、力(暴力)が支配するシステムが入れ子のように組み込まれた社会に生きている。それは、力にねじ伏せられ声を持たない人が、常に、自分のすぐそばに存在する社会でもある。自分の暮らしと地続きにある物語に、ぜひ、触れてみてほしい。本日(2017年5月2日)DVD発売。公式ウエブサイトはこちら。(中村奈津子)