
撮影:鈴木智哉
ケース1 日本国籍の私はフィリピン国籍の妻と離婚したいのですが、フィリピンの家族法では離婚を認めないそうです。離婚できるでしょうか。
ケース2 日本国籍の私はイタリア国籍の夫と離婚したいのですが、イタリアの家族法では別居判決等を得てから3年別居してようやく離婚が認められるそうです。夫も私も離婚に合意しているのに、今離婚できないものでしょうか。
ケース3 オーストラリア国籍の夫と日本国籍の私はずっと日本に暮らしてきましたが、夫がオーストラリアで離婚訴訟を提起し判決を得て、日本の役所に離婚の届出をしてしまいました。夫は不貞相手と暮らしており、有責配偶者なのに、離婚が有効なのでしょうか。
◎準拠法が公序に反するときは日本法が適用
渉外離婚の離婚原因は、準拠法となる各国(各州)の家族法でどのように定められているかによることになります。しかし、準拠法が外国法となる場合には、「その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない」ことになります(法の適用に関する通則法42条)。外国法の適用を排除した場合、日本法が適用されます(最判昭和59年7月20日民集38巻8号1051頁)。
◎外国法が離婚を認めない場合
フィリピンのように離婚を認めない国もありますが、裁判例は、離婚を認めない外国法の適用は公序規定により排斥しています(東京地判昭和60年6月13日判時1206号44頁)。また、「ただし、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。」(通則法27条ただし書)によって、ケース1の「日本国籍の私」が日本に常居所を有する場合には、日本の家族法が適用されることになります。
でも、日本では離婚が認められても、フィリピン人の妻はフィリピンでは離婚したと認められないのでしょうか。フィリピン家族法26条2項は、フィリピン人が外国人と婚姻し、その後外国人配偶者が外国において有効に離婚判決を得て再婚できるようになったときは、フィリピン人配偶者においても、フィリピン法により再婚できる、としています。一定程度、外国における離婚の効力を認めている、ということです。
◎外国法の離婚要件が公序違反の場合
準拠法が離婚を認めていてもその要件が公序に違反するとして適用が排除されることもあります。
イタリア法では、別居判決または協議別居の認諾及びそれから3年間の別居生活を離婚原因とします。しかし、ケース2のもととなった横浜家審昭和62年10月30日家月40巻10号53頁は、以上のイタリア法に基づく離婚原因はその事案にはありません。しかし、双方合意の上で別居し、以後3年以上も経過していること、その間イタリア人夫は日本人妻に生活費を全く支払わず、来日しても妻とほとんど交流せず、夫も妻も婚姻を継続する意思がないことからすると、両者の婚姻関係は完全に破たんしている、イタリアとは異なる歴史的、社会的基盤にある日本での生活を今後も希望している妻と夫との婚姻関係にイタリア法を適用するのは、妥当とは言いがたい、等として、イタリア法の適用を公序に反するとして排除し、日本の民法を適用して離婚審判をしました(家事事件手続法284条)。
◎外国の離婚判決を無効とした例
外国裁判所の確定判決は、民事訴訟法118条1号から4号の全ての要件を備えていれば、日本で承認され、執行判決を得ることができます。
ケース3のもととなった東京家判平成19年9月11日家月60巻1号108頁では、日本で暮らしていたオーストラリア人夫がオーストラリア、ニューキャッスルの裁判所で得てきた離婚判決が、民事訴訟法118条1号(外国裁判所に管轄権があること)、同条3号(公序良俗に反しないこと)の要件を欠き、無効であるとして離婚無効確認を求めた訴訟です
判決は、夫婦が婚姻後一度もオーストラリアに居住したことがないこと等から、オーストラリアの裁判所に離婚訴訟の管轄権があるとは認められず、1号の要件を欠くとしました。
また、別居の原因はもっぱら夫の身勝手さによるものであり、未だ婚姻関係が修復する可能性がないとはいえないこと、仮に破たんしているとしても、その原因は不貞行為や調停で成立した婚姻費用を支払わないなど夫の身勝手な行動にあり、夫が有責配偶者であること、まだ5歳の子どもがいる等、離婚を認めれば妻は精神的、経済的に苛酷な状態に置かれることが予想され夫の離婚請求は信義誠実の原則に反するものであり、日本の裁判所では認めることはできないとして、3号にも違反するとし、オーストラリアの判決が無効であるとしました。
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