
教育勅語を幼稚園児に暗唱させていた森友学園問題以降、国会での政治化の答弁は、無理解、無意味、そして無責任さを露呈しつくしている。現在も文科省を中心に、安倍政治の本質を見せつけるような、公共財の私物化問題が大きく取り上げられているが、「共謀罪」をなんとしても通過させ、都議選前に国会に幕を引きたいという、これまで自分勝手な政治家の論理で、わたしたちの大切な権利が踏みにじられようとしている(し、この記事がアップされたころには、そうなっているであろう)。
さて、本書『家庭教育は誰のもの?家庭教育支援法はなぜ問題か』は、ブックレットという手に取りやすい形で、いかに「支援」という名のつく法律が、わたしたちの心の自由を奪いつつ、政府の無能と無責任のつけである社会基盤の崩壊を、わたしたち市民に尻拭いさえようとしているかを、順をおって丁寧に説明してくれる。
「1. 教育支援法案とは」では、支援法というのは名ばかりで、社会構造の変化ゆえの家族構成員の変化や、家族と過ごす時間の減少、そしてなにより、政府主導で40年以上にわたり悪化させられてきた労働環境の劣化には触れず、あたかも、家族を構成しているわたしたち市民に、あらゆる責任を押し付けようとしていることが、法案を紹介しながら論じられる。憲法を破壊しようとしている安倍政権の下で、家庭にまで、政府に都合のよい道徳を押しつけようとしている恐ろしさがよく理解できる。
「2. 「外堀」を埋めるかのような「国民運動」」では、すでに地方議員らの手によって、理想の家族を祖父母まで引っ張り出して形成させようと躍起な姿が描かれる。ようやく多くの人に知られるようになった日本会議だが、国会議員よりもむしろ、日本会議に所属する地方議員たちが日本会議の裾野を広げ、たいした議論もなく、わたしたちの心の自由を蝕む条例が通っているのが現状だ。本章でとりわけ言及される「大阪維新の会」の条例ーー市民の抗議のおかげで白紙撤回となったが--の悪質さについては、今後も大阪で同じような序例案が提出されるであろうから、心にとどめておかなければならない。
ここまででも、すでに背筋が凍る内容だが、第一次安倍内閣時に、やはり「民主主義の死」と大きな反対に合いながらも、強行された「3. 教育基本法「改正」とのつながり」、そして、森友事件以降、「憲法や教育基本法に反しない形」であれば、教材に使用可能という閣議決定まで出された教育勅語との関連「5. 家庭教育への介入--すでにそれを私たちは経験している」を読めば、国家に必要な国民を育成するための装置として、家庭を利用しつくそうとしている政治家たちのために存在する「支援法」に、いてもたってもいられなくなるだろう。
なによりも、この法案に示される「理想の家庭」が教育現場においてさえ強要されるようなことは、「一種の暴力であり、教育の場・学習の場にはふさわしくない」(26)。「オールドカマー/ ニューカマーの子ども、日本の「伝統」や「文化」の中にある「らしさ」のステレオタイプに違和感をおぼえる子ども、「普通」とされる家庭をもたない子ども、施設などで育つ子ども、セクシュアル・マイノリティの子ども、身体の弱い子ども、自己主張が苦手な子どもなど、教室の中には、多様な子どもたちが居る」からだ。
憲法破壊政治とその根っこを同じくする、この「支援法」は、「4. 再びの母性愛・三歳児神話の強調?」でも指摘されるように、女性たち(母親)に子育ての責任を負わせる、「「母親になれ」プレッシャー」をかけたい人たちによって推奨されている。かつて、『ジェンダー・フリー・トラブル』で、「ジェンダー・フリー」教育へのバッシングについて分析された木村さんは、「あるべき」姿を政治の力で押しつけようとすることは、どんな存在であっても価値があるとする、現行憲法の価値観を否定することだと指摘する。
「子どもたちは多様な状況におかれている。どんな状況にあっても、子どもたち自身に価値があり、他者から尊重されるべき存在だ。基本的人権とはそういうものである」(43)。
あるべき家族像に限らず、男らしさや女らしさを押し付けようとする政治が、なにを否定しようとしているのが理解されよう。つまりそれは、わたしたち一人ひとりの基本的人権、どんな状況にあってもわたしたちの存在に価値があるとする、「尊厳」そのものが否定されるのである。
家族を大切にしたい人、家族なんて要らないと思っている人、家族って何だろうと悩んでいる人、今から家族をと考えている人、いろいろな人に、支援の名の下で、わたしたちの心の自由が圧迫されようとしていることを、分かってほしい。 (岡野八代)
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