撮影:鈴木智哉

ケース1 日本人である私はメキシコ人の夫とアメリカで同棲し、子どもを産み、その後結婚しましたが、不仲となり、子どもと日本に帰りました。夫はアメリカのA州の裁判所で離婚訴訟を提起し、認められましたが、親権は管轄権がないということで何らの判断もされませんでした。親権については日本で手続がとれるのでしょうか。

 ケース2 私は妻と妻を子どもの親権者として調停離婚しました。その際詳細な面会交流の取り決めをしました。妻がアメリカのB州に子連れ留学した後、なかなか面会交流の実現が難しく、新たに面会交流の条項を変更したいと思っています。日本で申し立てればいいのでしょうか、B州の裁判所に申し立てればいいのでしょうか。

 ◎人事訴訟法案継続審議中
子の親権、監護、引渡し、面会交流に関する日本の国際裁判管轄権について整理した人事訴訟法改正案が既に提出されていますが、継続審議中です。たとえば、法案では、離婚の国際裁判管轄が日本にある場合、親権者・監護に関する処分についての裁判の管轄権も日本にあるものとします。これは今までの裁判例の多くが認めてきたことを踏襲したものといえます。

 ◎子どもと密接な関連を有する子どもの住所地国・常居所地
現時点ではまだ法改正されていないので、裁判例をふりかえりましょう。 子の親権、監護に関する処分に関する国際的裁判管轄権は、相手方の住所地国のほか、子どもの福祉の観点から、子どもと密接な関連を有する子どもの住所地国または常居所地にも認められてきました。
 ケース1のもとになった静岡家審昭和62年5月27日家月40巻5号164頁は、親権者申立事件についての国際的裁判管轄権が日本にあるかどうかは条理によって決するほかないとしました。その上で、子どもの国籍はアメリカであるが、日本で今後も成育していくことが予想されるところ、親権者指定に関する旧家事審判規則70条・60条(現家事審判法167条、159条)によれば、親権者指定事件は子の住所地の家庭裁判所の管轄に属するとされており、それは子どもの生活環境の密接な地で審判がなされることが子どもの福祉により適合するという趣旨からであるとし、本件のような事件も、子どもの福祉に照らして、子どもの現在の居住地の国の家庭裁判所が管轄権を認めるものとすべきとして、日本に国際裁判管轄を認めました。

 ◎子どもの住所がなく、離婚の国際裁判管轄が日本にある場合
 ケース1とは違い、子どもの住所がなく、離婚の国際裁判管轄が日本にある場合はどうでしょうか。その場合でも、親権者指定・監護者指定の管轄権も日本に認めた判断は多いです(札幌家審昭和60年9月13日家月38巻6号39頁、東京家審昭和63年2月23日家月40巻6号65頁等)
しかし、ケース2のもととなった東京家審平成20年5月7日家月60巻12号71頁は、相手方の住所地国に国際裁判管轄があるのを原則とし、子どもの福祉の観点から子どもの住所地国にも管轄権を認めるのが相当として、日本の管轄権を否定しました。本件では、非親権者が既に親権者と子どもが居住するペンシルバニア州の裁判所に調停条項を変更する調停を申し立てており、親権者より管轄は日本にあるとの抗弁が出されていたので、先決問題として、日本の裁判所による管轄を有していないとの判断を得るために申し立てたという経緯がありました。