グリム童話のメタファー: 固定観念を覆す解釈

著者:野口 芳子

勁草書房( 2016-09-01 )


 この本では、1章で取り上げた人気のある4話、「白雪姫」「いばら姫」「赤ずきん」「灰かぶり」(シンデレラ)に限定した邦訳を3章に提示している。  初稿、初版、決定版のドイツ語を同じ人間が訳すことによって、同じドイツ語は同じ日本語という原則を貫くと、グリム兄弟による改変が明確に浮かび上がるようになる。
 伝承文学であるグリム童話には西洋古代、中世、近代と様々な時代の価値観が交錯している。現代人には意味不明と思われる行動の背後には、中世や古代の価値観がメタファーという形で潜んでいる。それを解読すると、異なる価値観を持つ人々の生活が浮かび上がる。
 現代では推奨される「笑い」が、「性的行為」として否定的に捉えられたり、「美しさ」が容姿ではなく「豊穣さ」(出産能力)を表すものであったりする。「恋愛結婚」は推奨されるどころか、全力で阻止すべきものであったり、子捨て姥捨てをする「家族」は、繊細な愛情に満ちた共同体ではなく、合理的な生産の場であったりする。価値観というものは時代によって社会によって変化するものであることが痛感される。社会が期待している「女らしさ」「男らしさ」、すなわち「ジェンダー」もまたそうである。
 娘しか生んでいない母親が悪者にされ、父親の呪術により目覚める初稿の白雪姫には近親姦の匂いがする。小枝や靴の慣習法を熟知し、王子を翻弄する灰かぶりには、中世の逞しい生産者としての女性の姿が反映している。秘密婚や強姦の「眠り姫」の話を純潔の話に読み替えた「いばら姫」には、グリム兄弟の「ゲルマン神話」へ傾倒が読み取れる。服装コードを無視した赤ずきんが、ストリップショーで狼を欺くロマンス語圏の話を、人狼に襲われた娘を狩人が救出する話にしたグリムの「赤ずきん」は、近代メルヒェンの最たるものといえる。 さらに日本に導入される過程で加えられた改変も分析し、日本が西洋から何を受けいれ、何を排除したかを突き止めようとしている。グリム童話についての従来の固定観念を覆えす一冊である。著者