
撮影 鈴木智哉
ケース1イタリア人である私は、日本にいる日本人の夫のもとにいる子どもを取り戻したいです。イタリアのある裁判所で、子どもを私の監護に付する旨の緊急的・暫定的な命令を得ました。イタリアのこの命令をもとに、引渡しを求められますか。
ケース2 アメリカ人の私は、アメリカのある州の裁判所で、日本人元夫に養育費の支払いについて給与天引き・州の集金機関に対する送金を命じる判決を得ました。この判決をもとに、給与天引きをさせられますか。
◎外国裁判所の確定判決の承認の要件
外国裁判所の確定判決を得ても、そのままでは強制執行できません。民事訴訟法118条1号から4号のすべての要件を満たしている場合に限り、日本でも効力をもちます。まず、民事執行法24条の執行判決を得る必要があります。
民事執行法118条1号から4号は、以下の通りです。
1号 外国裁判所の裁判権が認められること
2号 送達を受けたこと
3号 公序良俗に反しないこと
4号 相互の保証
今後、この各号ごとに取り上げますが、今回は、「外国裁判所の確定判決」にあたるかどうかが問題になった、上記の各ケースのもとになった事案について解説していきます。
◎認められなかった例
ケース1のもとになった事案では、別居しているイタリア人妻が日本人夫に離婚を前提とする身上別居の訴えについて、イタリアのトリノの裁判所は、被拘束者たる子どもを請求者(妻)の監護に付する旨の緊急的・暫定的な命令を下しました。これを確定判決と認めなかった原判決を不服としてイタリア人妻は上告しましたが、最高裁判所第三小法廷昭和60年2月26日判決家月37巻6号25頁は、イタリアのトリノの裁判所の上記命令は、民事訴訟法旧200条(現118条)の「確定判決」に当たらない等として、上告を棄却しました。
◎認めた例
ケース2のもとになった事例で、アメリカ人元妻は、日本人元夫との間の子どもの養育費の支払について、ミネソタ州のへネビン郡裁判所で、給与天引き・州の集金機関に対する送金を命じる判決を得ました。日本では、養育費の審判等につき、給与天引きや公的な集金機関に対する送金を命じるような手続がありません。そこでこの原判決では、元妻の請求を斥けました。
しかし、元妻の控訴を受けた東京高裁平成10年2月26日判決判時1647号107頁は、この原判決を変更しました。まず、東京高裁は、養育費支払についての給与天引き制度は、日本には存在しない制度であるから、日本において、ミネソタ州へネビン郡裁判所の判決(本件外国判決)によって、当事者でない元夫の使用者等に対し、差押え等を介することなく、子どもの養育費を被控訴人の給与から天引きし、これを公的な集金機関に送金すべきことを命ずることかできないのは明らかである、としました。ところで、判決によって支払を命じられた養育費については、ミネソタ州法上、支払が30日間以上ないときには、支払請求権者か支払義務者に対し所定の通知をし、支払義務者が支払をするか、所定の手続をとらない限り、執行することができるとされています。そこで、東京高裁は、本件外国判決のうち、元夫の使用者等に対し、元夫の給与の天引きとヘネピン州A・アンド・Bサービスへの送金を命ずる部分は、ミネソタ州において、元夫に対し養育費の支払を命ずるものとして執行力を有しているというべきであるとし、本件外国判決のうち養育費の支払を命ずる部分の執行力を、日本においても外国裁判所の判決の効力として認めることかできるものであるとしました。要は、養育費の支払を命じた部分については、「外国裁判所の確定判決」と認めたということです。
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