障害のある私たちの 地域で出産、地域で子育て――11の家族の物語

著者:安積 遊歩

生活書院( 2017-07-14 )


 この本への寄稿を尾濱さんに頼まれたのは数年前になるかと思う。半分くらいまで書いて、しばらく時間が空いた。いよいよ本格的に本にするという連絡があるまで、正直その原稿を書きかけていたことも忘れていたくらいだった。
 しかし世の中、異様な戦争への煽動が次々と行われ、日本の状況もどんどん平和から遠ざかってきている気がする昨今。原稿を完成させた後、私はこの本の題名を「私たちのアンチ・テロリズム」としたくなった。
   自分の原稿も含め、皆の原稿を読めば読むほど、障害を持つ人の子どもはアンチ・テロリズムの「平和の戦士」として生まれている。つまり出生前診断がある中、生まれるというその一点にさえ、闘いが必要な時代になった。社会の中に、親の中に、そのまんまの身体を持って生まれておいでという合意はまるでないから、障害を持つ子どもは避けられることになる。ましてや親自身に障害があれば、凄まじい差別の中をくぐり抜けてしか、妊娠、出産はありえない。
 この本にある11の家族の物語を読んで頂ければ、差別が差別ではなく、日常と常識となっていることがよく分かる。特に私は遺伝的な障害と言われる身体の特徴なので、出生前診断の前には優生保護法からの抑圧にもかなりからめとられていた。
 20代の私がもし妊娠していたら、多分出産にはいたらなかっただろう。娘が生まれた1996年、私は40歳だった。世の中の高齢出産や、遺伝に対する差別を十分知っての出産への決断だった。それまで私は闘い続けて、優生保護法の優生思想部分を削除した後に生まれてくれた娘に「待っていてくれてありがとう」と心から感謝と尊敬の気持ちがわいた。それは今もずっと続いている。
 この本には、そうした過酷な闘いを経ながらもなお、産もうとし、産み育てている親達の赤裸々な歴史が綴られている。それは優生思想という、社会に常識のようにある現実を拒否したアンチ・テロリズムの、最も文字通りの非暴力行動である。その中に生まれてきてくれている子ども達は、福祉の具体化が無ければ平和はないのだ、ということを伝え続けてくれる強力な同志、仲間達である。
 タイトルは分かりやすい方が良いので、本のタイトルにはならなかったが、私の中ではこの本は「私たちのアンチ・テロリズム〜真実の平和と福祉への旅〜」である。