エッセイ

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「子どもの本を巡る私の活動」とおすすめ本~『こんな絵本に出会いたい』作者・木村民子さん

2009.12.04 Fri

『こんな絵本に出会いたい‐自分らしく生きるには』という本の著者・木村民子さんから活動紹介と推薦本を頂きました。小さい頃、本の中の男の子・女の子像にええっと驚いたこと、ありませんか? ジェンダー・センシティヴな子どもの本を選ぶってなかなか難しい。
だけど、子どもの本には、女の子も、男の子も、自分のしたいことや願いに忠実に生きていいんだよ、というメッセージをおくる力もあふれています。そんな選りすぐりの本を推薦してこられた木村さんは、どうして子どもの本を読もうと思われたのでしょうか?

★子どもの本を巡る私の活動  木村民子
 

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 幼い娘の手をひいて通った図書館で、ある日、神沢利子さんの講演会が行われた。神沢さんは自身の著書『はらぺこおなべ』 に女の気持ちをこめて書いたとおっしゃった。女だけがなぜ閉じこもって、いつも誰かのために生きなくてはいけないのか、この命題は正しくジェンダーの課題だとあとで知ったのだが、当時の私の悶々とした気持ちにぴったりだった。
 くりかえしの日常生活に嫌気がさした強欲なおなべのおばあさんは外へ飛び出し、痛快な旅に出る。神沢さんは幼年童話に見事、女の恨みつらみを塗りこめ、ユーモアあふれるストーリーの展開で大人たちをも楽しめる本に仕立てた。このときの神沢さんとの出会いが、私と子どもの本との新しい出会いとなったのだ。

 以来、ジェンダーの視点で子どもの本を読み解くという作業を、私のライフワークとしてこつこつ始めて、最初に書いた本が『女が素敵な子どもの本―それからのノラたちの選択』 (1996)だった。当時は「ジェンダー」という言葉さえあまり知られず、無名の著者の本など女性学専門の出版社では見向きもされず、まして児童書の出版社でも相手にされなかった。

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 しかし、懲りない私は10年後第2弾として『こんな絵本に出会いたい―自分らしく生きるには』 を出版した。前者は女性―主婦や母親の気持ちを救い取った宝物的児童書を紹介したのに対し、後者は女性が子どもから大人になるまで直面するさまざまな人生の課題にジェンダーセンシティブな子どもの本がどう答えているかを著した。そして自分らしく生きるには、このジェンダーの問題を避けて通れないことをメッセージとして投げかけた。

 最近ようやく絵本研究の新しい視点としてジェンダーを取り上げる気鋭の学者も現れてきたが、私は子どもの本をただ女性学やジェンダーのテキストとしてとらえたくなかった。すぐれた子どもの本はある意味芸術作品であり、時空を超えて、幼児から大人まで人々の心を魅了する。まずは、やわらかい心で絵本や児童書の世界に浸って欲しいと願っている。

☆【いじわるだった】「ちいさかった私」と、「いま、ちいさいあなたへ」贈る

 子ども時代の愛読書だった『小公女 (岩波少年文庫 (2027))』 を大人になって改めて読んでみたとき、イジワルなラヴィニアそっくりだった過去の私の苦い記憶がよみがえってきた。私はセーラに羞じた。最後の場面で、セーラは自分が貧しくてひもじかったとき、パンを分けてあげたこじきの女の子に再会する。自分の行いが人々によい影響を与えていたことを知り、さらにその善意がつながっていくようにとセーラは願う。『小公女』は周囲のイジメに目が奪われがちだが、今頃になって、私はセーラの人としての「気高さ」がもうひとつのテーマであったことに気づかされたのだ。

☆「いま、ちいさいあなた」へ贈る本

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 女の子の気高さという点では、『わたしは生きてるさくらんぼ―ちいちゃな女の子のうた』
がおすすめ。裸んぼの女の子は「まいあさわたしはあたらしいものになるのよ」と歌い、「わたしはいつもわたしでしょう」と大海原の前で大空にむかって両手を広げる。「なりたいものになる自由」という崇高なテーマを美しい絵と詩的な言葉で語り尽くしている忘れられない1冊。

☆「大きくなりかけのあなた」へ贈る本

『ゼバスチアンからの電話』
 ドイツのベルリンに住む17歳のザビーネという少女とその家族が織り成す物語。一家が転機を迎えたとき、娘と母親が自立していく過程を娘の視点から描いた傑作。タイトルのゼバスチアンはザビーネのボーイフレンドの名前で、彼からの電話を待つばかりの娘だったザビーネの成長がきめ細やかに描かれている。

★ジェンダーセンシティブなクリスマスの本で一押しの絵本

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『サンタクロースはおばあさん』
「サンタクロースはおじいさんの専売特許の仕事だと誰が決めたの」と、不満を持ったおばあさんはサンタクロースに扮して孫娘にプレゼントを届けに行く。でも女の子に機関車は似合わないとおばあさんサンタが靴下に入れたものは・・・。ジェンダーの視点で見るとプレゼント選びに異議ありだけれど、この絵本はおばあさんと女の子の時空を超えた愛に満ちている。








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