撮影:鈴木 智哉


ケース1
私は日本人で、夫はアメリカ人で、どちらも日本に住んでいます。夫がハイチ共和国内の裁判所で私との離婚を認める判決を得たとして、他の女性と結婚してしまいました。私が手続に応じられないハイチ共和国の判決が通用するなんて、許しがたいです。
 
ケース2

 私は日本人で日本国内に住んでいます。私と交際していたAさんは、アメリカのB州へ行きそこで私との子どもを産みました。私は出産すること自体に反対しアメリカへ赴いてAさんに中絶してほしいと要請しましたが、Aさんは聞き入れませんでした。そして、Aさんは居住しているオハイオ州内の郡裁判所で私に対して子の養育費の支払いを命じた判決を得ました。この判決に従って払わなければいけないでしょうか。

ケース3
アメリカ人妻がアメリカのC州裁判所で日本人夫である私を被告として、離婚や子の親権者を認める判決を得ました。この判決は有効なのでしょうか。

前回、外国裁判所の確定判決が日本で効力を持つためには、民事執行法24条の執行判決を得る必要があること、そのための要件は民事訴訟法118条1号から4号であることを説明しました。今回は、そのうちの外国裁判所の裁判権が認められること(1号)を取り上げます。
 
 ◎外国裁判所の裁判権が認められなかった例


 ケース1のもととなった事案では、妻(新たに結婚した妻ではなく、最初の妻)が外国離婚判決の不承認を求める訴えを提起しました。裁判所は、妻と夫がどちらもハイチ国籍ではなく、住所も常居所もハイチになかったこと等を踏まえて、ハイチ共和国での判決は、管轄権を有しない裁判所によりなされたものであり、1号の要件を欠き承認されないとしました(横浜地判昭和57年10月19日家月36巻2号10頁)。最初の妻との離婚が承認されないことになることから、同判決は、新たな婚姻は重婚であるとして、無効であることの確認もしました。

 ◎外国裁判所の裁判権を特別事情があるとして否定した事例


ケース2は、東京高判平成9年9月18日判タ973号251頁を参考にしました。子の監護に関する処分事件の一つである養育費請求事件は、原則として、子の住所地ないし常居所地のある国の裁判所に管轄権が認められます。上記東京高判もまずその原則を確認しましたが、養育費請求事件は、子の監護に関する処分事件の一つであるとはいっても、子の引渡しや子との面接交渉を求める事件とは異なり、実際には子の両親の間の経済的負担の調整を図ることを内容とする側面が強いものであるので、紛争当事者の間の公平にも十分配慮する必要があるとしました。すなわち、養育費請求事件にあっては、具体的な事情に基づき条理に照らして判断し、国際裁判管轄権を認めるのを相当とする特別の事情のある場合には、例外的に、子の住所地ないし常居所地のある国ではなく、義務者の住所地ないし常居所地のある国の裁判所に国際裁判管轄権があると解するべきであるとしました。
 裁判所の認定によれば、母親は、父親と交際中に、別の男性と婚姻し、その後渡米して出産したとのことです。出産後、母親は、オハイオ州の郡裁判所で、婚姻した男性と父親を共同被告として、前者には父親でないことの確認と、父親には父親であることの確認と養育費の支払いを求めて訴訟を提起しました。そのオハイオ州の郡裁判所の判決が今回承認を求めている外国判決です。こうした経過を踏まえ、裁判所は、子どもと父親の住所地が異なった原因は、父親に関わる事情にあるのではなく、母親に関わる事情にあり、特別の事情があるといえるとして、オハイオ州の郡裁判所の管轄権を否定しました。

◎外国裁判所の裁判権を親権者指定について認めた事例

ケース3のもとになったケースは、日本に住む日本人夫がアメリカ人妻を訴えた離婚訴訟において、妻が夫に対しオレゴン州の裁判所に訴えて得た離婚判決が問題になった名古屋地判平成11年11月24日判時1728号58頁です。
裁判所は、オレゴン州の裁判所の判決のうち離婚については、裁判権を認めず不適法としました。その理由につき、離婚の訴えの国際裁判管轄について被告の住所を基準とすることは、訴訟手続上の正義の要請に合致し条理にかなうから、被告が日本に住所を有する場合には日本が国際裁判管轄を有すると解すべきと指摘しています(民事訴訟法4条1項、2項参照。最高裁判所昭和39年3月25日大法廷判決民集18巻3号486頁、同平成8年6月24日第二小法廷判決民集50巻7号1451頁)。
その一方で夫からの離婚請求を認めました。
親権者指定の部分については、離婚の訴えの国際裁判管轄を有する国のほか子の住所地の所在する国が有すると解するのが相当であるとしました。親権者指定の申立ては、離婚の訴えに付随するものであって独立の訴えではないことから、離婚の訴えの国際裁判管轄を有する国は親権者指定の裁判の国際裁判管轄も有すると解することは合理的ですが、親権者指定に関する審判事件は、子の福祉の観点から、子の住所地の家庭裁判所の管轄とされている趣旨を踏まえて、親権者指定の裁判の国際裁判管轄は、子の住所地の所在する国も有すると解される、としたものです。
そこで、本件で、裁判所は、オレゴン州裁判所の判決の親権者指定に関する部分については、外国裁判所の裁判権が認められ有効であるとし、判決主文では、親権者を指定しませんでした。