撮影:鈴木 智哉

ケース1
私はオハイオ州に滞在する日本人で子どもを育てています。子どもの父親で日本にいる日本人男性に養育費を支払うよう命ずる判決をオハイオ州内の裁判所で得ました。日本でも有効になるでしょうか。

 ケース2
日本人同士の夫婦です。夫がカリフォルニア赴任中に同州内の裁判所で離婚判決を得て、その後カリフォルニアで再婚してしまいました。私は日本で離婚無効確認訴訟を起こしましたが、認められるでしょうか。

前前回から、外国裁判所の確定判決が日本で効力を持つためには、民事執行法24条の執行判決を得る必要があること、そのための要件は民事訴訟法118条1号から4号であることを説明しました。今回は、そのうちの、「敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。」(2号)を取り上げます。この要件がなぜあるかというと、防御の機会も与えられないで敗訴した被告にその判決の結果を押しつけるのは、相当ではないからです。
ですから、「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」とは、被告が現実に訴訟手続の開始を了知することができ、かつ、支障なく防御権を行使しうる場合を指します。
具体的には、訳文の添付のない送達等が問題となってきました。

 ◎私的な依頼での郵送 
判決国と日本との間に送達に関する条約が締結されている場合には、条約が定める方法によらず訴状や訴訟書類が送達されたときは、「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」の要件が満たされないとされます。
 離婚裁判ではないのですが、最高裁平成10年4月28日判決民集第52巻第3号853頁は、香港の判決の原告から依頼された日本人弁護士が、日本に在住する被告に訴訟書類を直接交付したことが、この要件を満たすかが争われた事案です。最高裁は、「訴訟手続の明確と安定を図る見地からすれば」、条約に定められた方法を遵守しない送達は、民訴法118条2号の要件を満たす送達にあたるものではないとした上で、私的に依頼を受けた者による直接交付の方法による送達は、条約上許容されておらず、この要件を満たさないとして斥けました。

 ◎訳文をつけない郵送
 送達条約(10条(a))は、名宛て国が拒否を宣言しない限り、郵便による送達を認めています。そこで、外国在住の原告から日本在住の被告に、訴訟書類が直接送られてきた場合も一定の場合は有効です。
ケース1のもととなった東京高判平成9年9月18日高裁民集50巻3号319頁は、旧民事訴訟法200条2号(現118条2号)の要件を充たすためには、「呼出もしくは命令の送達がわが国の司法共助法制に従って行われ、通常の弁識能力を有する日本人にとって送られてきた文書が司法共助に関する所定の手続を履践した「外国裁判所からの正式な呼出もしくは命令」であると合理的に判断できる態様のものでなければならず、そのためには、被告の語学力の程度にかかわらず、当該文書の翻訳文が添付されていることが必要であると解するのが相当である。」としました。この件では、翻訳文が添付されていなかったので、2号の要件は満たさないとされました。

 ◎判決が効力を有しないことの確認
執行判決ではなく、外国判決が効力を有しないことの確認を求められる中で、外国判決の効力が問題になる場合があります。
ケース2の元となった東京地判昭和63年11月11日判時1315号96頁は。旧民事訴訟法200条2号(現118条2号)について、上記東京高判平成9年9月18日高裁民集50巻3号319頁と同様に、「司法共助に関する所定の手続を履践せず、翻訳文も添付しない単なる郵送による送達のように、防御の機会を全うできないような態様での送達は、原則として、その適法性を肯認しがたいものというべきである。」として、日本にいる妻が防御のための方法を講ずることのできる態様での送達を受けていないカリフォルニア州内の裁判所の離婚判決は、旧民事訴訟法200条2号(現118条2号)の要件を満たさず、日本国において効力を有しないとされました。