
2017年9月で、私が徳川時代の離婚法、つまり三くだり半と縁切寺の研究を志して、ちょうど五〇年である。私は通説とされた「夫専権離婚(追い出し離婚)」説に果敢に挑戦した。1つは「我等勝手につき」の解釈、2つは妻方に離婚権を留保した先渡し離縁状、3つは夫が妻からもらう離婚の承諾書(離縁状返り一札)の、主としてこの3つの視点から反論し、「熟談離婚」説を唱えた。その成果が『三くだり半―江戸の離婚と女性たち』(平凡社選書、1987年)であった。
家永訴訟の争点の1つにもなったことから、歴史教科書から各時代の女性の地位をめぐる記述はあるものの、「江戸時代の女性の地位」は抜け落ちたままであった。しかし、2003年の改定にあたって、山本博文ほか著『日本史B』(東京書籍、2006年)が高木説を初めて採用し、「江戸時代の女性の地位は、従来まで考えられていたほど低いものではなかったのである」とした。教科書が変わったのである。
また、朝日新聞2017年8月12日朝刊、文化・文芸欄「あなたへ往復書簡」で、「三下り半は妻のため 鮮やかな逆転」をなしたのは、私の選書『三くだり半』であると評論家・思想史家の渡辺京二氏が書いている。いわば一般常識としても、私の夫専権離婚説批判=熟談離婚説が受容されてきたといえよう。
これまで収集・整理した三くだり半は1306通になり、私の所蔵するものも227通になった。本書はすべて私所蔵の離縁状約100通からなる。『写真で読む三くだり半』と題し、見開き2頁のうち、右頁に写真と解読文(読み下し文も付した)、左頁に解説を付し、一話読み切りの体裁にした。全体としては三くだり半のアラカルト集になっている。興味のあるところから読み、三くだり半のワンダーランドに遊んでいただきたい。とくに強調したのは私のいう「離婚請求者支払義務の原則」である。今日の離婚における慰謝料が有責配偶者から支払われるのに対して、当時は有責性にかかわらず、別れたい方(離婚請求者)が支払ったのである。
なお選書『三くだり半』に補注と補論を付して、ライブラリー版(1999年)にしたとき、解説を書いてくださったのが上野千鶴子さんであった。選書の刊行が、いかにも早く「しかも女性史やフェミニズムの動きとは関係なく」なされた成果で、「先駆の書」と過分な評価をいただいたことが思い出される(著者 高木 侃)。
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