
私は、NPO北海道ネウボラという札幌市の市民活動団体の代表をしている。
『ネウボラ』
よほどのマニアじゃなければ聴き馴染みないであろうこの言葉。
読者の皆様にもぜひマニアになっていただきたい。
「ボウフラ」(虫?!)でも
「ネオラボ」(新しい研究所?)でもなく、
「ネオボラ」(新しいボランティア?)でもない。
「ネウボ」=「アドバイス」、「ラ」=「場所」を意味するフィンランド語が語源の言葉であり、フィンランド人の誰もが妊娠したら行く場所。
妊娠期からの健診機関であり、切れ目ないワンストップの相談窓口に専門家のネウボラナースがいる。
定期的な妊婦健診、母親教室、父親教室のような役割も果たす。
父親がネウボラに同伴するために仕事を休むことはフィンランドでは当然の権利である。
国の機関なので誰でも無料で利用できる。
ネウボラナースは、市民から親しみを持って『ネウボラおばさん』と呼ばれる。
フィンランドで100年の歴史が根付いて文化になっているのが「ネウボラ」。
もう3世代に渡って継続しているものなので、フィンランドには「ネウボラ」があって当たり前だそうだ。
「ネウボラがない子育てなんて考えられない!」
そう、フィンランド人の母親は言う。
フィンランドの『ネウボラ』は小学校区に一つくらいあるという。
フィンランドの国土は北海道の面積と同じくらい。
その中に850ほどのネウボラがあるらしい。
ちなみに、北海道の平成29年度の小学校数は1061校だ。
子育てで困ったときは、「ネウボラおばさん」に、電話したり、会いに行ったり、来てもらったりするそうだ。
面談は、個別に予約制。ゆったりした個室で話ができ、キッズルームもあり、家族で来所できる。
子どもの事、育児の事に困ったらネウボラ、育児中のお金に困ってもネウボラ、仕事に困ってもネウボラ、子どもがいじめられてもネウボラ。
妊娠期から子育てについてのみに限らない家族全体を支援する。
それがネウボラ。
妊婦ネウボラ、子どもネウボラ、家族ネウボラとネウボラにもさまざまある。
詳しくは、フィンランドネウボラ研究の日本の第一人者髙橋睦子先生の本があるのでぜひ参考にしてほしい。
もしくは、当団体NPO北海道ネウボラでは、北海道内にてネウボラについてのセミナー開催もできるので、ぜひご相談いただきたい。
ところで、私が、そんな「フィンランドのネウボラ」についてを広めるべく
「NPO北海道ネウボラ」という名前の札幌市の市民活動団体を立ち上げたのが2015年の12月であった。
日本版ネウボラというモデル事業が各地で始まりつつあったのも2015年。
この日本版ネウボラは、2017年4月から「子育て世代包括支援センター」として法制化され、各自治体への設置努力が義務化されている。
ワンストップの相談窓口という文字が新聞にお目見えしたのもこのくらいの時期2015年頃からであったと思う。
でも、私が『切れ目ない支援』という言葉、フィンランドのネウボラを知ったのはもっと前だった。
それは、2014年の10月。
この頃は、まだ娘も小1の壁に突き当たっていて、息子は幼稚園の年中さん。
まだまだ子どもたちが社会的弱者だったころだ。
近所で、割と条件のいい非正規の職についていただのであるが、
それでも、車のない徒歩移動。
幼稚園、小学校、児童館、勤務先との其々の規則・条件にがんじがらめな毎日を送っていた。
そんな頃、インターネットで日経デュアルの記事で読んだのが初めてだった。
-フィンランドの切れ目ない家族支援「ネウボラ」-
第一回目のエッセイでつづったように、
就職氷河期から挫折の人生が始まり、
結婚・出産も、男女平等ではなかった日本で、
劣等感に満ちた非正規パート中だった私の心に光が差した。
記事を見つけたのは、非正規の勤務中だったが、記事を読んで涙が出た。
勤務中だったが、涙が止まらなかった。そっと涙をぬぐいながらそれを夢中で読んだ。
-母と子どもを中心にした対話から広がる家族への支援-
-寄り添う対話から始まる伴走者がいる子育て-
-「社会全体が赤ちゃんようこそ!」と歓迎する社会-
はたと考えた。
これまで、私に寄り添って、話を聞いてくれた誰かがいただろうか。
私の子どもたちを社会が歓迎してくれたことは、かつてあっただろうか。
・・・
今現在、活動をしていてもよく声をかけられる言葉がある。
「ネウボラというものがあるということを知れただけでも心が明るくなった、希望が持てた」
「ネウボラを知ってよかった」
この言葉は、現役の乳幼児の母親だけでなく、すでに乳幼児期を過ぎ去った方、すでに社会人となったお子さんをお持ちの方からも聞く言葉なのだ。
・・・
私もまさに、この時、そうだったに違いない。
フィンランドのネウボラを知って、
子どもがいることが祝福される世界があると知ってうれしかった。
私はただ、幸せに子育てしたいだけだったのに、日本の社会からは疎外されてしまった。
子どもを連れて歩く世の中は申し訳ないことばかりだった。
子育てという、自然な営みを社会に受け入れてもらえる世界があるのだと希望を感じた。
子どもを連れて歩くことが、子どもがいるということが、迷惑だと思われるのが悲しかった。
子どもがいて仕事をすることは、どんな職場でも歓迎はされなかった。
かといって、専業主婦にもなれなかった。
ただただ、私たち母子を社会の一員に入れてもらいたかった。
その記事を読みあふれる涙を拭いながら、この覚えにくい言葉を決して忘れまいと、
横長のピンクの付箋に書き留めてデスクの塩ビのシートの間に挟めた。
『ネウボラ~妊娠期からの切れ目ない支援~』
普遍的な家族も含めて、分け隔てなく子育て家族全体を切れ目なく支援する。
『ネウボラ』
この言葉を知った、ここから、きっと、私の人生が徐々に変わり始めた。
NPO北海道ネウボラ 代表 五嶋絵里奈(ごしまえりな)
※-フィンランドの切れ目ない家族支援「ネウボラ」-の記事は、当団体のFacebookページトップに記事のリンクを固定してあるので是非ご一読を。
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