
「生涯未婚時代」とは、結婚経験を持たない中高年の増加に加えて、結婚を人生設計に組み込まない若者の登場という日本の現状を踏まえた新しい時代の見取り図です。ライフコースの多様化はこれまでも広く論じられてきたテーマであり、そこに注目する本書のスタンスはそれほど新しいものではないかもしれません。しかし、結婚を中心にライフコースについて再び考える必要が近年高まっているものと思われます。
その理由のひとつに、人口減少と未婚化・晩婚化を結びつける議論が最近あまりに強調されている点があります。若者の経済状況や待機児童など、「若者が結婚できない」理由と結びつけられることで社会的関心を高めた政治課題は数多くあります。一方で、「子どもを増やす」ためには「結婚できない若者」の救済が必要だとのロジックはライフコースの多様化を疎外するだけではなく、育児や介護など本来社会が負担するべき福祉を家族に集約させるという意味での家族主義の強化と不可分です。
プライベートな領域である家族はプライバシーの陰に隠れていますが、企業や行政、学校などと連携しながら社会を構成しています。IT技術の進歩やグローバル化の影響などを受け、都市や労働、教育のあり方が変わっている今日、家族もそれに合わせて変容するのがむしろ自然な姿です。私が専門としている家族社会学では、これを批判して新しい家族の姿を提示しようとする試みが若手を中心に近年行われています。こうした研究潮流を踏まえ、結婚のありかたについて再び考えなおそうという意図が本書には込められています。
家族社会学の知見を基盤としていますが、若者論やメディア論を援用し、初学者にも読みやすい形でこれからの結婚や家族について考えられるよう工夫をしています。例えば、アニメ『おそ松さん』やテレビドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』など、最近話題となった漫画や映画などを積極的に引用し、時代の状況を素早く把握できるようになっている点は本書の特徴の一つです。
本書の構成は、一章では生涯未婚時代に注目する意義について取り上げています。第二章では生涯未婚時代と男性ジェンダーとの関係について、特に家族主義の強調は「弱者男性」をくじいているという点を中心に論じました。第三章では従来指摘されてきたライフコースの多様化と女性の生き方について、第四章ではセクシュアリティや家族の変容について、第五章では家族機能の限界と未婚者を包摂する可能性について、それぞれ書いています。第六章は全体のまとめになっています。
私が社会学の勉強を始めたのは1990年代の半ばのことです。当時の社会学では若手や中堅を中心に、これからのビジョンやモデルを示そうとする議論が数多く示されていました。近年の社会学ではデータ分析や調査結果を中心に現状を分厚く記述する著作が主流となっていますが、本書の主眼は現状の実証ではなくむしろモデルの提示にあります。本書がこれからの結婚について考えるきっかけになればさいわいです。
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