1月23日の毎日新聞に安倍首相の施政方針演説が載っていました。全文というので、改めてじっくり読んでみました。 昨年、「女性の輝く社会」「女性の活躍する社会」のスローガンを何度も口にした首相です。今年こそはそれを具体的に実現させてほしいと思いながら読みました。まず「女性」ということばがどのくらい出て来るか調べてみました。ありがたいことにインターネット上にも全文が載っていて、それで用語の検索ができます。ネット上の演説の全文字数は11995文字で、その中に「女性」の文字は7回出てきました。

 これが多いのか少ないのか知るために、ほかのことばも検索してみました。演説の中に多く出ていることばを拾って検索した結果、以下のような数字が得られました。10回以上使われていたことばを多い順に並べてみます。

世界 21  日本 19  改革 19  制度 15  大学 15  経済 14
皆さん 14  地方 14  観光 14  子ども 12  我が国 12  教育 10

 「日本」と「我が国」を合わせると31回使われていて、「世界」の21回よりはるかに多いところには、首相の日本ファースト的意識が透けて見えます。「改革」「経済」「制度」「観光」などのことばが多いことからは、経済中心主義も窺われます。そしてこうしたことばが10回以上も使われている中で、「女性」は7回、しかも「子ども」の半分ぐらいしかないことは、やはり、女性活躍社会を標榜する首相の演説としては少ないと言わざるを得ないでしょう。

 数だけでは、実際に首相がどういう意味や意図で「女性」のことばを使っているかがわかりません。数は少なくても「女性活躍」を具体的に事例を示し、その推進を強く提唱しているかもしれません。そこで、7例の「女性」がどのような文脈で使われているかを見てみます。

 最初の例は、明治初年、明治政府が白虎隊の一員であった山川健次郎を重用したことに触れ、その山川の功績をたたえる中で出てきます。

「東京帝国大学の総長に登用された山川は、学生寮をつくるなど、貧しい家庭の若者たちに学問の道を開くことに力を入れました。女性の教育も重視し、日本人初の女性博士の誕生を後押ししました。」

 「女性」が2回出てきます。明治期の大学総長の業績として「女性の教育」と「女性博士」を持ち上げていますが、これは、安倍首相の「女性活躍」のスローガンとは無関係です。むしろ、明治初年にそこまで教育を重視し「女性博士」も誕生させた人がいたのに、その後150年の間何をしていたの?と言いたくなります。

 2番目の例です。

 「女性も男性も、お年寄りも若者も、障害や難病のある方も、全ての日本人がその可能性を存分に開花できる、新しい時代を、皆さん、共に、切り拓いていこうではありませんか。」

という中で使われた「女性」です。「男性も女性も」ではなく、「女性も男性も」と順序を逆にしたところは、さすがにちょっと気づかいが感じられますが、しかし、ここでは、老若男女のカテゴリーのひとつとしての「女性」にすぎなくて、どこも輝いてはいません。

 3番目です。

 「保育施設についても……当初の目標の受け皿を整備してまいりました。こうした中で、子育て世代の女性の就業率は、五ポイント上昇し、過去最高となりました。……。女性活躍の旗を高く掲げ、引き続き、待機児童の解消に全力で取り組みます。」

 「女性の就業率」があがったことは女性が活躍できる可能性が高くなったこととして、評価できそうです。しかし、待機児童がなくなれば女性活躍が実現するなんて、そんな甘いものではありません。待機児童解消は、ほんの入り口です。女性活躍の旗を高く掲げるなら、その先の就業してからの女性が職場で輝けるためのもっともっと大きなバリアーを取り除くべく、具体策を掲げてもらわないと困ります。

 4番目です。
 
「持続可能な開発目標の実現に向けて、貧困対策や保健衛生、女性のエンパワーメントなど、人間の安全保障に関わるあらゆる課題の解決に、国際社会での強いリーダーシップを発揮していきます。」

 国際社会の中で、女性のエンパワーメントもいいけれど、日本のジェンダーギャップ指数の114位はどうしてくれるのと言いたい。国内の女性のエンパワーもできなくて、世界へ向けてリーダーシップなど発揮できますか?

 そして、最後の例です。150年前の、たびたび氾濫する天竜川から村を守るために大規模な植林を実践した金原明善の事績を紹介して、金原の呼びかけに賛同した多くの人たちの働きを語ります。

  「力ある者は、山を耕し、苗木を植える。木登りが得意な者は、枝を切り落とす。女性や子どもは蔦(つた)や雑草を取り除く。それぞれが、自身の持ち味を活かしました。」

 ここでは、結局、「女性」は子どもと同じ力しか出せない弱い存在です。

 残念ですが、7回使われた「女性」ということばも、「女性活躍」のスローガンに沿ったものとしては、3番目の例だけでした。しかも、その内容は就業率が上がったというだけです。「女性活躍の旗を高く掲げ」のことばは美しいし頼もしいですが、それが待機児童の解消のためとは、ちょっと目標が低すぎます。待機児童問題は、もうずっと言い続けられてきた問題です。その待機児童が解消して初めて次のステップに進めるのですが、その見通しは全く示されない。これでは「女性活躍」は絵にかいた餅です。わたしたちは本当の餅を食べたいのです。