学校給食と食育は、今や切っても切り離せない関係です。それぞれの存在感が強すぎて、一度には語りつくせないため、数回に分けて書いていきます。今回はその1です。

皆さんは、学校給食にどんなイメージまたは思い出をお持ちですか?

学校で過ごす1日の中でも楽しみな時間だったり、逆に憂鬱だったり、美味しくて大好きなメニューがあったり、美味しくなくて二度と食べたくなかったり…
年配の方には、いまだに『脱脂粉乳』のトラウマが!という方もいらっしゃいます。
味や雰囲気に関する印象や感想は、人それぞれのものですが、学校給食の「格差」は、確かに存在しています。
栄養士が考える献立や、それを作る調理師の技術、作る環境、食べる環境、給食費、そして、給食がそもそも出るか出ないかなど。
平等なのは、給食施設では学校給食法や大量調理施設衛生管理マニュアルなどの法令に沿って作らなければならない、ということですが、設備や人員など、スタートから格差があるのに、全国一律のレベルで給食を出すのは困難。というか不可能です。
残念ながらあまり味が良くない給食が出る学校に通っている方には、お気の毒としか言いようがありません。色々な事情が重なって、そうなってしまっているのだと推察されます。

私自身も学校栄養職員として、給食を作り、食の指導にも携わっていました。
最初は2006年から1年間、岩手県内の給食センターで1日約2500食、続いて2007年から6年間、東京都内某区の中学校で1日約400食、2013年から1年間は同じ区内の小学校で1日約400食の給食を提供していました。
給食センターと自校式、小学校と中学校、ということでも、給食の献立や作り方が違いますから、栄養士も頭を切り替えるために、若干の時間を要します。(もしかして、私だけ…?)

さて、そんな学校給食は、明治22年、山形県鶴岡町(現在は鶴岡市)の私立忠愛小学校で、貧困により弁当を持参できない子どもたちのために、空腹を満たすための『お昼ごはん』として、おむすびと塩鮭、漬物を出したのが最初と言われています。

スタートのコンセプトとしては、現代の学校給食よりも、子ども食堂に近い印象です。

徐々に他の地域へ、そして全国へ広がり、貧困児童以外の子どもたちにも提供されるようになります。
それに伴い、学校給食の役割も変化していき、午後の授業に備えて空腹を満たすための簡単なお昼ごはんから、子どもたちの良好な成長を促進するための栄養価を考えられた食事へ、現在では食育基本法の制定や学校給食法の改正により、給食は食育のための『教材』にまで『格上げ』されました。
こんな風に、国が豊かになるにつれ、学校給食の役割は変化していったのですが、今になって『子ども食堂』が必要な状況になるとは。
正直、食育なんて言ってる場合じゃない気がします。

ここで、給食費の仕組みを説明します。

まず、給食費は純粋に食材費としてのみ使われます。人件費はもちろん、調理施設や設備、光熱水費等はそこに含まれません。食材費以外は、全て自治体の負担です。
給食費は各区市町村によって異なります。給食費の一部を補助している地域もありますが、その方法や金額もそれぞれで異なります。
文部科学省が毎年行っている学校給食実施状況等調査結果によると、平成28年度の平均給食費は、小学校が年間190回で月額4,323円、中学校が年間186回で月額4,929円です。
金額はいずれも前年度より微増、中学校は平均回数が1回減っています。(熊本県は震災があったため、調査対象から除外されています。)これを、一食あたりに換算すると、小学校が273円、中学校が318円となります。金額、回数ともに大きくバラツキがあるため、単純にまとめることはできませんが、この金額で基準どおりの栄養価で給食を出すのは、正直、かなり厳しいことです。
例えば、今年のように、年間通して野菜が高くても、基本的に途中で給食費が上がることはありません。
どんなに優秀な栄養士でもお手上げ状態です。赤字を出すわけにはいかないため、結果、より安価な食材(加工品など)を選ばざるを得ない、ということもあるのではないでしょうか。

未納金については、文部科学省が行った平成24年年度の学校給食費の徴収状況に関する調査の結果(全国の公立小中学校約29,000校のうち、583校を抽出して行った標本調査)が最新です。それによると、未納者の割合は約0.9%、未納額の割合は約0.5%となっています。
先に示した平均額を用いて全校生徒400人の中学校で例えると、未納者0.9%なら全体のうち約3〜4人、未納額0.5%なら1年で約118,000円です。この学校の1日あたりの食材費は約127,200円。つまり、未納0.5%でほぼ1日分に相当することになります。
未納者や未納額が多いのか少ないのかというのは、この調査で単純に答えを出すことはできません。
年度当初に全家庭から全額納入され、未納が全くない地域もあると聞きますし、逆に未納金が次年度以降に繰り越されているケースもあるからです。
現場の人間からすると、お金の問題は各学校により深刻度が異なるため、このような調査はあまり意味があるとは感じられません。

ちなみに、私が勤めていた区では、当時、区内の児童生徒全員の給食費の一部を区が負担していました。
生活保護世帯には就学援助制度が適用され、要保護世帯は国からの、準要保護世帯は自治体からの補助金で全額が援助されます。
主に未納が心配されるのは、準要保護にギリギリで含まれない世帯です。『払えないのか』『払わないのか』までは分かりませんが、給食費がその世帯にとっても給食を出す側にとっても、懸念事項であることは間違いありません。

私が勤めていた学校では、遅れはあったものの、最終的に全額納入してもらうことができました。学校によっては、残念なことに何年も繰り越されてしまっているケースもあります。(その場合は、納入してもらえるまで連絡をし続けるのが普通です。)
未納対策として、引き落としをやめて集金袋に戻した地区もあり、それによって実際に未納が減ったり、無くなったりしたこともあるそうです。しかし、これが、本当に根本的な問題解決になっているのかどうかは疑問です。

学校給食の暗い裏側ばかりを書いてしまいましたが、学校栄養職員にとっては毎日が戦いです。どんなに衛生管理に気をつけていても、子どもたちがお腹を壊したらどうしよう、お金足りるかな、たくさん余ったら嫌だな…。心配や不安は尽きません。
私の本音を明かすと、就職をした当初は(実はそれ以前から)、学校給食なんか無くなればいいと思っていました。
というのは、学校給食は、いつも何らかの問題を抱えているからです。

上記のように、給食費未納問題、食中毒等への安全対策問題、食べ残し問題、給食の内容の格差問題などなどなどなど…。作る側の努力でなんとかなることも多いのですが、それだけではどうにもならないこともあります。
私は極端なので、色々な問題を一気に片付けるなら、給食の廃止がベスト!と自分の中で結論づけていました。
そして、食事自体プライベートな行為であるし、食環境も変化しているのに、みんなで同じものを必ず食べなければならない、ということそのものに違和感を持っていました。
嫌いなものも食べるように言われるくらいなら、好きなものを組み合わせて栄養を摂った方がよほどいい。せめて弁当をベースにして、希望者だけに給食の提供をするスタイルがいいんじゃないかな。と思っていました。
(注:そう思ってはいても、決して無責任な気持ちで就職したわけではありませんし、適当な仕事をしていたわけでもありません。また、実際に給食を食べるか食べないか選ぶスタイルで給食を提供している地域もあります。)

だから、中学校に最初の挨拶に行った時、副校長に、『給食だけで栄養を摂っているような子もいるからちゃんとやってください』と言われた時は仰天しました。子どもの貧困が問題視される前で、子ども食堂もまだ無かった頃のことです。
冗談かと思っていたのですが、実際に働き始めて、実情がわかってきました。
さすがに飢えているとまではいかないものの、家でほとんど食事を摂っていない様子の子、摂っていても偏っている雰囲気の子。そういう家庭の格差があることは予想はしていましたが、思っていたよりも多かったのです。
あー、これは給食辞められないなー。と思うしかありませんでした。

貧困→給食費未納→家であまり食べていない子はたくさん食べる。満たされている子はそこそこの量。=食事量と支払額が!?
ということは、そんなに珍しいケースではありません。(決して未納が許されるということではありません。)
でも、これは良い悪いの問題ではなく、子どもたち自身にはどうすることもできない、仕方がないことだと思うのです。
あくまでも私個人の考えですが、子どもたちが生き抜くために、大人の責任でどこかで辻褄を合わせるとしたら、これもそうなのかもしれない。だから、美味しい給食を作ろう。と思って働いていました。

ところで、美味しい給食を作る(作れる)条件というのは、様々あるのですが、なんと言っても鍵となるのは、栄養士と調理師、そして調理師さんどうしの関係です。
仲良しだと美味しい。仲が悪いと…。
ウソみたいですが、大概はこれに当てはまってしまうのです。

副校長に、もうひとつ言われたことがあります。
『調理師さんとはうまくやってください。となりの学校の若い栄養士さんは、毎日泣いています。』
Σ(゚д゚lll)…。どんなモンスター調理師がいるんだよ…。と青ざめました。
ビビりながら働き始めましたが、私が一緒に働いた調理師さんたちは本当にいい人ばかり。
給食を作るのが好きで、私の出す無理難題にも一生懸命に答えてくれました。だから、私も頑張れたし、楽しめました。本当に感謝! 今でも連絡を取り合っている人たちもいますし、みんな大好きです。

学校給食の現場から離れてしばらく経ちますから、私が働いていた頃と状況は変わっているかもしれません。より良くなっていたり、より悪くなっていたりするのだと思います。
給食は基本的に行政が主体で運営するものなので、視野が限定されがちなところがあります。

食べる子どもたち、その家族の声が、もっと尊重されるような仕組みができれば、そして、それに対するお手伝いができればいいな。と思っています。

おまけ ☆給食と音楽☆
ゲロ byザ ハイロウズ
衝撃的なタイトルと歌詞!下品だとは一蹴できない給食の痛いところを突いてくる一曲。
当時は、戒めのつもりでよく聴いていました。
ロブスター https://www.amazon.co.jp/dp/B00005FDQ8/ref=cm_sw_r_cp_api_QboGAb4ATA28D

学校給食と食育 その2に続きます。


*給食費等に関するデータは文部科学省のサイトを参照しました。

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■ 管理栄養士 高橋 玲奈 ■