日本では残念ながら、おとうさんの家事・育児への参加が進んでいません。命をつないでいく家事・育児は大きな責任と忍耐を必要とする営みです。それをおかあさんのみが背負うのはあまりにも過酷です。
日本ではいまだ、政治・経済・教育など、あらゆる領域で、男性が方針・決定をつかさどる立場にいます。その男性たちの多くが、子育てに主体的にかかわっていないとすれば、「生活」のリアリティを持たない人びとが政治や経済の舵をとっていることになり、その船の行く先はとても危ういもののように思われます。
いまや共働きの家庭が多数となるなか、妻と力を合わせて家庭を支えるおとうさんが増えてほしいという願いから、本書は生まれました。
著者の佐川光晴さんは、約10年間の屠畜場勤務ののち、専業作家になりました。少年たちの成長を描く「おれのおばさん」シリーズ(『おれのおばさん』『おれたちの青空』『おれたちの約束』『おれたちの故郷』)で人気を集め、以来さまざまな家族のかたちを模索する作品を発表されています。そして佐川さんには、主夫として二人の息子さんを育ててこられたというもうひとつのお顔があります。
本書において佐川さんは、不妊症治療を経て授かった「わが子の誕生」、激しい夜泣きへの対応、家族の健康をつくる料理の楽しみ、こどもと積み重ねる遊びの時間、保育園の先生たちとの交流など、ご自身の育児生活を振り返り、その経験がいかに多くの学びを与え、人生を豊かにしてくれたかを綴っています。そして、これからおとうさんになる人たちに熱いエールを送っています。
「家庭がおとうさんにとっての居場所となり、そこでいとなまれる生活を養分として、こどもたちが育っていく。これほど充実感のある出来事はこの世にないと断言できます」。
本書を読んで、一人でも多くの男性が「こんなに“おいしい”経験をしないなんてもったいない」という気持ちになってほしいと願っています。
本書に推薦文をお寄せくださった料理家・文筆家の高山なおみさんは、「たいへんおもしろかったです。爽やかな風が、すーっと通っているような本でした」と評してくださいました。育児のおかげで大きくなれたすべての人びとに、本書をおすすめいたします。
学術出版の世界思想社(京都市左京区)は創業70周年を記念して、こどもの幸せを考える「こどものみらい叢書」を創刊しました。敗戦後、知識や教養の普及を目指して創業したという経緯から、平和と教養という理念に立ち返り、これからの社会をつくっていくこどもたち、そのこどもたちを育てるおとなたちを応援するシリーズです。本叢書の第1弾として刊行したのが、この『おいしい育児』です。
第2弾・山下太郎『お山の幼稚園で育つ』(2018年3月刊行)は「幼児教育はすべての教育の根っこ」と信じる幼稚園の園長によるエッセイです。今後、本叢書は、家族や福祉、心理、文化などを専門とする立場からのエッセイを展開していきます。
2018.03.01 Thu
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タグ:本