2010.01.09 Sat
B-WANでは、労働や雇用の問題、所得保障の問題、そしてこのような日常の生活につながる政治問題に特に関心が集まりました。WANトップページでも、「なぜ女の労働は見えないんだろう?:ワーキング・ディペンデント?」、貧困に関するシンポジウム報告「わたしの貧困 女の貧困 どうして? どうする?」など、労働や貧困など社会問題に関する記事が多数見られました。
今回の「わたしたちのイチオシ」もまた、このような格差社会、グローバリゼーションなど、それぞれの個人の立場から関心を持たざるを得ない課題のあふれる昨今の社会状況を反映しているともいえます。
完全雇用を前提にした社会政策システムに無理が来ている状況の中で、新しい社会政策を考えるために刺激を与えてくれるベーシックインカムという「思想」。入門書としては若干難しいところもあるけれど、刺激的な本だと思います。とくに、ベーシックインカムについて、シングルマザーの要求運動として登場した側面を強調する姿勢には共感をもって読みました(momiji)。
「生きていることこそ労働」という観点が新鮮でした。所得と労働を切り離すという日本社会では、およそ考えられないような試みが、ベーシック・インカムそのものの制度ではないとしても、すでにヨーロッパなどでは真剣に考えられていることを知らせてくれました。2010年は、右からの左からも、ベーシック・インカムの議論がもっと盛んになるだろう、と予感させてくれた好著です。女性たちの運動に源流を求めている点でも、とてもエンパワーされます(moomin)。
『ベーシックインカム入門』は、このほかarichanさんからもご推薦をいただきました。間違いなく、2009年を代表する労働・雇用問題の良書だと思います。山森さんへのインタビューは『We』162号 でも取り上げられています。
日本の「いま」の労働現場を、くまなく取材、新聞連載をまとめた一冊。これからの働き方を示唆する、海外の労働政策にも言及。「貧困ジャーナリズム大賞’09」の著者が、日本の現実を活写する。(やぎ みね)
WANには竹信三恵子さんの講演会の報告 記事もあります。併せてご覧ください。
また、ホームレスやネットカフェ難民、長期失業の若者や日雇い派遣など、日本の今に関する本では、他にもarichanさんより、『社会的排除―参加の欠如・不確かな帰属』 2008 岩田正美 (有斐閣Insight)をご推薦いただいています。
『竹中恵美子の女性労働研究50年―理論と運動の交流はどう紡がれたか』
竹中恵美子さん、80歳にして、この労作。1950年代はじめ、卒論のテーマが「同一労働・同一賃金」だったとは、またまたびっくり。一貫して、ぶれない女性労働への視点と、理論と実践を、身をもって切り開いてきた女性研究者の歩みは、後に続く女たちに大きな勇気を与え、新たな女性運動を予見させる書ともなっている。(やぎ みね)
女性労働研究の第一人者、竹中恵美子先生のご研究の歩み。私(B-WAN担当)自身も「ディーセントワーク」という言葉は、10年前に単位互換で竹中先生の授業を受けさせていただいた際に初めて知った概念でしたが、現在の社会状況においてますます重要となってくることだと思います。また、この『竹中恵美子の女性労働研究50年―理論と運動の交流はどう紡がれたか』、次に掲載の『政治理論とフェミニズムの間―国家・社会・家族』は、著者・編集者からの紹介ページでもご紹介をいただいております。
さて、政治・社会理論に関する本にも注目が集まりました。ジェンダーと社会を考える上で、新しい視点を持つことができる意義深い作品ばかりです。
ずっと以前から、フェミニズムの語りの中で使われる「政治」と、政治学でいうところの「政治」とのズレが、気になっていました。そんなわけで、まさに待望の一冊です。専門的で、本質的な問題に切り込んでいますが、平易な言葉を用いていて理解しやすく、多くの読者に開かれた研究書だと思います(yoko)
『シティズンシップの政治学―国民・国家主義批判 (フェミニズム的転回叢書)』
授業のために最近読み直しました。もっとも古い版の方ですが。リベラリズムの議論がきちんと批判的に検討され、フェミニズム・シティズンシップ論で何が拓かれるのか、腑に落ちます。(S)
「ディアスポラ」をめぐる若手研究者たちによる共同作業と個別研究の成果。テーマに取り組む熱意と友情が感じられる好著。(K)
また、グローバルな視点への興味深い作品も挙げられています。
ヴェトナム難民のリンさんは、ひとりだけ生き残った幼い孫娘を抱いてフランスへ渡る。あまりにも深い絶望と哀しみと、そのなかで人と人がつながりあうことの可能性。また本書にはひとつの秘密がある。読了後もう一度初めから読み直すと、全く違う物語が見えてくるだろう。(tsering)
李静和さんから出てきた光が、アーティストや書き手の身体を通して、多様でありながら一義的な織物となった、稀有な「記録」のかたち。(K)
さらには、次のような、日常を私たちがどうやって「楽しく」(=不当にしんどくなく)「有意義に」生きていくかについて考える本が入っていることも面白いです。
くじけそうになったとき、勇気づけられる本です。三井マリ子さんのセミナー「世界一暮らしやすい国 ノルウェーに学ぼう!」を名古屋で企画、開催しました。ノルウェーを羨ましがってばかりではいけません。日本でどうしたらいいかという具体的な方法を学べる本です。(夢子)
新書版の小さな本なのに、すっごく中身が充実! すぐ作って食べてみたくなる、あんまり手間のかからない料理が満載です。どんなワインに合うかも書いてあって、親切。(ogn)
食べることって、この日常的なことから、実はとても世の中のいろんなことにつながってたりします。今、B-WANリレーエッセイには、こんな「食べること」のいろんな見方に関するエッセイが並んでます。よろしければぜひ併せて読んでください。また、B-WAN特集の、「作ってみた! 食べてみた!! B-WAN お料理企画縲怐vもぜひ。(B-WAN副店長:A)
カテゴリー:2009 わたし〈たち〉のイチオシ / moomin