2018年4月7日(土)、ドーンセンター(大阪市内)にて、“フォーラム労働・社会政策・ジェンダー”主催、“働く女性の人権センターいこ☆る”協賛で、シンポジウム「働き方改革をジェンダー視点で斬る~人間らしい働き方と生活(ディーセントワーク)は実現するのか?」を開催しました。基調講演として大脇雅子弁護士、シンポジストとして田宮遊子さん(神戸学院大学准教授)、報告として働く女性の人権センターいこ☆るの村上幸子代表をお迎えしました。

■大脇雅子さんのお話 「働き方関連法案を斬る~規制緩和の変遷をふりかえって」  

安倍政権は今通常国会を「働き方改革国会にする」「70年ぶりに労働基準法を改正する」と宣言しました。シンポジウムの前日である4月6日には、「働き方改革」関連法案を閣議決定し、国会提出を強行しました。その中身は「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指す」というもので、生産性向上を目指す企業を優先し、労働規制緩和を行うことを意味します。この法律では底なしの労働条件引き下げが行われ、過労死も防げません。重要な問題が労働政策審議会で検討されるのでもなく、労働者不在の官邸主導でことが進められています。厚労省によるデータの捏造も明らかになり、法案がどう審議されるか不安になると大脇さんは話されました。

「同一労働同一賃金」

「働き方改革」関連法案の論点のひとつに「同一労働同一賃金」があります。大脇さんは新白砂電機パート差別解雇・賃金差別裁判を日本で初めて担当された弁護士です。そしてその後、参議院議員としてパート労働者の権利保障に尽力されてきました。その経験から、「同一労働同一賃金」ではなく、国際的に確立しているILO100号条約の職務評価に基づく「同一価値労働同一賃金」原則こそが必要だと訴えておられます。

差別をなくすのに大事なのは非正規雇用の拡大に歯止めをかけるため、非正規雇用の入り口を規制することです。有期労働や派遣労働は臨時的、一時的といったように限定をしなければいけません。また、法案では現行の労働契約法20条(不合理な労働条件の禁止)が削除され、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」となります。労契法20条を巡るいくつかの裁判の判例はどうなるのかという問題点と、有期労働者と無期労働者の労働条件の違いが不合理であるという立証責任は労働者側と使用者側どちらが負うのかという問題点があります。入り口規制の問題とともに、この三点で「同一労働同一賃金」については抜け穴があります。

時間外労働上限規制

次に、時間外労働上限規制についてです。現状は三六協定も形式化され野放しの時間外労働が蔓延しています。今回はじめて時間外労働時間の上限規制の罰則が設定されましたが、あまりにも低い基準です。休日労働を含めると月最大100時間未満まで、年最大960時間以内の時間外労働は許されるという内容です。現在の過労死認定基準は月100時間、2~6か月平均80時間です。法案で上限がこのように制定されると、それ以下が合法化され、労災認定基準以下でも公序良俗に反すると労災認定されていた事例も認められなくなるかもしれません。

高度プロフェッショナル制度と裁量労働

そして、高度プロフェッショナル制度についてです。高度プロフェッショナル制度は、スーパー裁量労働制と言われるほど危険なものです。最も問題なのは、年収1075万円(平均賃金の3倍)以上は一切の労働時間規制をはずすというものです。具体的な内容は、法律ではなく、厚労省が「省令」で決めることになっています。国会でのチェックがきかない省令では、残業代の支払い義務の適用除外が拡大していくことが考えられます。「裁量労働制」は削除されましたが、高度プロフェッショナル制度は危険極まりないのです。

「生活時間プロジェクト」の問題提起から

長時間労働をなくしていくには、労働者の視点だけではなく生活者の視点が大事です。ジェンダーの視点で女性も男性も、育児や介護などの「生活時間」を取り戻すという考え方から労働時間法制を考え直すことが求められているのではないでしょうか。そのためにも、ディーセントワーク=働きがいのある人間らしい仕事が大切です。これは労働者保護とセットでないと確保できません。

また、大脇さんはこれまでの経験から、一括法案として強行採決が行われることを危惧されていました。最後に、今、全力あげて働く人たちが立ち上がる時ではないかと結ばれました。

■田宮遊子さんのお話 「シングルマザーと日本の雇用問題」

母子世帯の現状は、世帯数が増えている傾向にあります。ひとり親世帯の相対的貧困率は50.8%と、極めて高い水準となっています。母子世帯の非正規雇用割合も上昇傾向にあり、賃金の低さが低所得の一因となっています。シングルマザーの8割が就業しており、半数以上が週35時間以上就業していますが、就労と、非就労を比較しても貧困率に大きな差がなく、働くことが貧困から脱する有効な手段となりえていません。低賃金長時間労働の結果、母子世帯では親子がともに過ごす時間が短くなっています。ケアと就労の両立に困難が伴っていることも、母子世帯の就労収入を低位にとどめる一因となっています。

働き方改革実現会議による働き方改革実行計画(2017年)であげられた、シングルマザー世帯に関連する要点には「非正規雇用の処遇改善」「長時間労働の是正」「単線型の日本のキャリアパスの見直し」があります。大脇さんの講演で述べられたように、入り口規制がなく職務が不明確な今回の「同一労働同一賃金」では、非正規雇用の処遇改善ものぞめません。また上限が高すぎる時間外労働の設定では、長時間労働の是正はのぞめません。「単線型の日本のキャリアパスの見直し」についても、職業教育やリカレント教育を受けて能力ある労働者になって転職できるようサポートすると書かれてはいますが、これは既に行われていますが、効果が上がっていないという研究結果も出ています。シングルマザーの雇用を考える上で、この働き方改革実行計画が本当に有効かと考えると疑問点がある、と田宮さんはまとめられました。

■「働く女性の人権センター いこ☆る」からの報告 「女性労働の現場から」

働く女性の人権センターいこ☆るの村上幸子代表からは「女性労働の現場から」報告いただきました。いこ☆るでは女性の労働相談を受けていますが、セクハラやパワハラ等ハラスメントがらみがいちばん多く、相談全体の四分の一を占めているとのことです。解雇や労働条件の引き下げといった問題にハラスメントの問題が幾重にも重なっていること、そしてそれが心身の不調をまねいていることを実例からお話いただけました。組合活動をしている私もそのような事案にぶつかったりしてきたので本当にその通りだと思いました。年次有給休暇を要求すると解雇、長時間労働をしても残業代が支払われないという実態があるなかで、労働時間規制をはずす制度では無法が増々合法化することになるのではないだろうか、みんなで力を合わせていかなければならないと訴えかけられました。

■講演をきいて

質疑応答では、憲法、法律、規則については制定や改定に国会の承認がいるが、省令(告示)、政令、通達は省庁にまかせられていることについて、知らなかったという声があり、だからこそ本法をないがしろにしないよう監視の目が必要だと意見が出されました。また、人間らしい働き方や教育の大切さの発言や、大脇さんからは立法することの大変さが語られました。

田宮さんからは補足として、シングルマザーの貧困化を防ぐためには、収入の不足を補うよう社会保障から手当をつける方法が有効ではないかということがあげられました。

アンケートでは、「働き方をめぐる問題を立法的に理解することができた」「働き方関連法案について、シングルマザーの働き方の実態・生活の側面から見てみるというのは、切り口としてたいへん興味深かった」という声が寄せられました。 

大脇さんの“なぜ働くのか、どう人間らしく働くのかという視点を加えて労働現場をとらえ直して欲しい”、“労働基準法以上のものを労使で締結した労使協定は有効ではあるが、労働基準法を超えて労働させるための労使協定とはどういうことか。労働者の団結と団体交渉の原点に立ち返って我々は反転しなければいけないのではないか”という言葉と、田宮さんの“共稼ぎと比べシングルマザーはひとりでやっていく片稼ぎです。まともな生活時間で働き生活できる運動が盛り上がった時、シングルマザーの貧困化がその水準で防げるのかを労働運動をするうえで頭に置きたい”という言葉が心に残っています。私がユニオン活動を続けるなかでとても大事なことだと思いました。司会者は最後に、“8時間働いたら普通に暮らせる社会を”との運動を紹介されました。私も同感で、長時間労働をなくし働いた分に見合った賃金がきちっと支払われ、人間らしく働ける社会にしたい。そのためにも「働かせ方大改悪」法案は廃案にしなければならないと考えています。(M・E)