撮影:鈴木智哉

ケース1 
 裁判所から、子の引渡しの保全処分を出していただけたのですが、まだ相手が子どもを引き渡してくれません。どうしたらいいでしょうか。

 ケース2 
 子どもたちは母である私のもとにいますが、子どもたちの親権者を父とする離婚判決が出てしまいました。その後、私に、子どもたちを元夫に引き渡すよう命じる審判が出ました。それでも子どもたちが、元夫のもとへ行くのは嫌だと拒んでいます。元夫が間接強制の申立てをしてきたので、不憫でしたが、子どもたちを元夫に引き渡しました。ところが、子どもたちは、元夫宅から小学校へ登校した後、私のところへ戻ってしまいました。元夫は、私が仕組んだことのように言うのですが、私としてはそんなつもりはなく、どうしたらいいでしょうか。

 ◎保全の審判を債務名義とする場合
 保全執行は、債務者に保全命令が送達されていなくても強制執行ができますが(家事事件手続法109条3項・民事保全法43条・52条)。しかし、債務者に送達された日から2週間を経過すると執行することができません(家事事件手続法同項、民事保全法43条2項)。
 ケース1は、送達されたかされていないか不明ですが、とにかく急がねばなりません。事前に直接強制の申立書を準備し、直ぐに家庭裁判所に申し立てるくらいのスピードが必要です。担当執行官が決まったらすぐに面接し打ち合わせをして、二週間中に日程調整し、執行する必要があります。

 ◎引渡しの履行がされたというには
 ケース2の元になった事例(東京家審平成24年1月12日未公表)では、長男(1999年生)と二男(2002年生)の親権者を父とする離婚判決が下された2011年、母に子らを父に引き渡せとの審判が確定しました。父が間接強制の執行(遅滞日数ごとに損害金が課される手続です)を申し立てたところ、審尋期日に母の代理人弁護士が子らを連れて出席し、その場で父に引き渡しました。子らは父宅から小学校に登校しましたが、そのまま父宅には戻らず、母宅に戻ってしまいました。
父は、小学校で子らと面会しましたが、子らは父に直接父宅への帰宅を拒絶しました。
 父は、母が当初から子らを手元に留めておく意思だったのだから、上記の審尋期日での引渡しは、子の引渡しと言い難いと主張しました。しかし、審判は、子の引渡しの履行がなされたかどうかの判断は、「非親権者が未成年者を親権者の支配領域に移転したことをもって足りると解される」とし、現に父に引き渡されて、父宅で宿泊したことから、子らが親権者の支配領域に移転したことは明らかであり、引渡し債務は既に履行され消滅しているとしました。子らは当時12歳、9歳であり、「いったん債権者に引き渡された後、自らの意思で戻ったと認めるのが相当である」として、父の申立てを却下しました。父は抗告しましたが、棄却されました(東京高決平成24年3月27日未公表)。

 ケース2は離婚後の事案ですが、子の引渡しの事案はむしろ離婚及び親権が決着がついてからというより、離婚前に監護者の指定とともに争われることが多いです。離婚時の親権指定において、子の安定した生活環境をなるべく変更監護の実績しないことが子のためになるという考えから、監護の実績や継続性が考慮されることから、ケース2のように実際上の監護者ではなく非監護者を親権者とするとする判断は、あまり見受けられません。ケース2のもとになった、事実上の非監護者である父を親権者とした離婚判決が相当だったのでしょうか…。いったん父宅に引き渡されてから、母のもとへ戻る…。子どもたちはどんな思いだったのでしょう。なるべく辛い経験を子らにさせないように、裁判所にはしっかり判断してほしいものです。