ゲッベルスと私──ナチ宣伝相秘書の独白

著者:ブルンヒルデ・ポムゼル

紀伊國屋書店( 2018-06-21 )


 岩波ホールなど全国劇場で順次公開中の映画「ゲッベルスと私」は、ヒトラーの右腕としてナチ体制を牽引した宣伝大臣ヨーゼフ・ゲッベルスの元秘書のひとり、インタビュー時点で103歳だったブルンヒルデ・ポムゼルが、69年の時をへて当時を回想するドキュメンタリーです。30時間におよぶインタビューをもとに書き起こされた本書では、映画では語られなかった事実も明かされています。
 ポムゼルは、「政治には無関心」で、ナチ党に入党したのは条件のよい転職のためだったと語り、ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)などナチスの所業への関与を否定、一貫して「なにも知らなかった私に罪はない」と主張しています。
 本書を読んだとき、ポムゼルがなにも知らなかったとはとても思えない、と疑わしく思うとともに、あの時代同じ状況に置かれたら、自分も同じようにふるまっていたのではないか、という恐ろしさも感じました。
 ポムゼルは、「あのころと似た無関心は、今の世の中にも存在する。テレビをつければ、シリアで恐ろしい出来事が起きているのはわかる。たくさんの人々が海で溺れているのが報道される。でも、そのあとテレビではバラエティ・ショーが放映される。シリアのニュースを見たからといって、人々は生活を変えない」と語ります。ポムゼルのように、政治や社会の問題よりも自分の生活や仕事のことにばかり関心が向く人、目の前の悪や不幸に見て見ぬふりをしてしまう人は、現在の日本にもたくさんおり、本書を読めば、誰もが自分の中にある「ポムゼル的なもの」を見つめずにはいられないでしょう。   解説を執筆したジャーナリストのトーレ・ハンゼンは、このような市民の無関心こそがナチスの躍進を許したのだと、ナショナリズムとポピュリズムが再び台頭する現代社会へ警鐘を鳴らしています。
 映画を観たポムゼルは、「今になって、鏡に映されたように自分の過去を見せられた思いがする」「私の語ることは、過去から未来への警告だ」と述べたそうです。