
撮影:鈴木智哉
ケース
調停で離婚した際、面会交流についても取り決めをしました。面会交流ができるならと思って泣く泣く親権を元夫に譲りました。それなのに、子どもに会わせてもらえません。どうしたらいいでしょうか。
強制執行もできるでしょうか。
以下のように、履行勧告の申出をしたり、調停を申し立てたりしてはいかがでしょう。調停条項がどのようなものかによりますが、間接強制の申立ても認められる場合があります。また、慰謝料が認められる場合もあります。
◎履行勧告の申出
調停・審判・高裁決定・判決で面会交流が認められた場合、面会交流が実施されなければ、まず、家庭裁判所に、履行勧告を申し出てみましょう(家事事件手続法289条)。家庭裁判所は、面会交流の実施状況等を調査し、面会交流が実施されていないことが判明すれば、義務者に対し履行を勧告することができます。履行勧告の申出は書面でも、電話でもできます。
ただ、相手方が、勧告に応じてくれなくても、特にペナルティはありません。
◎調停の申立て
「え、また調停?まだるっこしい」と思うかも知れませんが、面会交流は相手方の協力が必要なところですので、急がば回れ。相手方がどんな状況で応じられないのか、条件を変えたら応じられるのかなど、調整して再度実施に向け調整するために、面会交流の調停を申し立ててみるのも、一案です(家事事件手続法244条・別表第2・3)。
◎強制執行
面会交流に直接強制は認められていません。執行官が同居親のところに入り込んで子どもを連れ出し、強制的に別居親に会わせる…。子どもにとって「怖い、もう二度とやりたくない」ということになりかねません。
ただし、間接強制は、一定の場合には認められます。間接強制とは、一定の期間に義務を履行しないなら、間接強制金を課すぞと警告することで義務者に心理的に圧迫を与え、自発的に応じるよう促す手続きです。
面会交流について間接強制が認められるか、認められるとしてどんな場合にか、ということを判断したのが、最高裁の2013年3月28日の3つの判例です。3つの判例で、最高裁は、面会交流に間接強制が認められる場合があることを認め、その場合の基準を示しました。すなわち、①面会交流の日時または頻度、②各回の面会交流時間の長さ、③子の引渡しの方法等が具体的に定められていれば、給付の特定に十分として、間接強制が認められるとしました。3つのうちこの特定に十分として間接強制を認めた最高裁平成25年3月28日決定民集67巻3号864頁では、審判で、月1回、毎月第2土曜日10時から16時(①、②)、母の自宅以外で父が定めた場所、子の受渡し場所は母の自宅以外の場所とし、協議で定めるが、協議が整わないときはJRのA駅の東口改札口付近とし、母が面会交流開始時間に子を父に引き渡し、父は面会交流終了時に受渡場所で子を母に引き渡すこと(③)、母は父子の面会交流には立ち会わないこと、などを定めていました。
間接強制が認められなかった他の2つの事案では、子の引渡し方法が定められていない(最高裁平成25年3月28日決定判時2191号46頁)、最初は一時間程度から始め、子の様子を見ながら徐々に時間を延ばす、具体的な日時場所方法は、子の福祉に慎重に配慮して、父母間で協議して定めるという条項がある(最高裁平成25年3月28日決定判時2191号48頁)、として、それぞれ特定に足りないとされたものです。
面会交流の条項では、具体的な日時場所方法は、子の福祉に配慮して、父母間で協議して定めるということはむしろ常識的な文言で、弁護士でも、「これからはそれではいけないのか?」と驚きが広がりました。では何が何でも間接強制を視野に入れて条項をつくらねば…というのは早とちり。
裁判官の論稿でも、最高裁は3つの判例で、間接強制の可否の判断に先立ち、「子の利益が最も優先して考慮されるべきであり、面会交流は、柔軟に対応することができる条項に基づき、監護親と非監護親の協力の下で実施することが望ましい。」と述べられており、その点は従来の家裁実務のあり方と一致している、間接強制を視野に入れた審判が増えることにはならない、としています。そして、間接強制を視野に入れるべきか考える事案とは、既に調停等で面会交流が決まったのに実施されず、改めて調停や審判が申し立てられたケースが考えられるとされています。その場合でも、なるべく実施できなかった障害を丁寧に聴取し、その解決に向け調整していくことが必要と指摘しています(水野有子・中野晴行「第6回 面会交流の調停・審判事件の審理」東京家事事件研究会編『家事事件・人事訴訟事件の実務 家事事件手続法の趣旨を踏まえて』法曹会、2015年)。
◎慰謝料
正当な理由なく面会交流を妨害する行為は不法行為または債務不履行にあたるとして、慰謝料が認められます(静岡地裁浜松支部平成11年12月21日判決判時1713号92頁、東京高裁平成22年3月3日家月63巻3号95頁)。
しかし、間接強制や慰謝料が認められる段階では、関係がこじれにこじれていて、その後肝心の面会交流を円滑に実施できるかどうか、心配です。そんなにこじれる前に、うまく調整して、面会交流ができるようになるといいですね。
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