書 名 なぜ、わが子を棄てるのか 「赤ちゃんポスト」10年の真実
著者名 NHK取材班
発行年 2018年5月
出版社 NHK出版
「赤ちゃんポスト」。正式には、熊本市内の慈恵病院におかれた「こうのとりのゆりかご」が2007年に設置されてから10年が経過した。10年間でなんと130人の子どもが託されたという。2本の報道番組を制作した、NHK取材班による報告。
まず、この「赤ちゃんポスト」のしくみを説明しておこう。赤ちゃんポストは一民間病院の取組みとしてスタートした。“子どもの命を救いたい”という目的で親が名乗らなくても子どもを置いていける設備をつくった。赤ちゃんポストの扉は二重構造になっており、最初の扉には親への手紙がおいてあり、その手紙を取らないと次の扉が開かない。内扉を開けると保育器が現れ、子どもが置かられると病院内のナースステーションにアラームが鳴るしくみとなっている。病院は同時に妊娠期の相談を24時間行っている。子どもは保護されたあとは、病院で育てられるのではなく、棄児として扱われ、通常の児童福祉の手続きをとって児童相談所がかかわり、乳児院などの施設で養育され、熊本市が費用をまかなうという。その後養子縁組などの手続きをする場合もある。
取材班は、預けられた子どものその後を取材している。養子縁組をした家で元気に暮らす少年は「預けられたから今があるので感謝している」と述べている。
「赤ちゃんポスト」は匿名性を守ると言いつつ、一方では子どもの出自を知る権利を守ろうと身元を知るための努力が行われ、130件のうち104件は身元が判明している。
第四次までの検証報告書によると、預け入れの理由には、「戸籍を汚したくない」など“身勝手な理由”もあったというが、第2期以降のトップは「生活の困窮」。次の「親の反対」などであり、少ないが「障害のある子ども」の例もある。
本書は身元判明例を紹介。インタビューも一部している。父子家庭で育った専門学校生が妊娠、迷っているうちに中絶できる期間を過ぎ、孤立出産後1週間で預けにきたケース。交際相手から中絶を迫られても彼と一緒に育てたいと思い追い詰められた末熊本市へきてホテルで出産し、赤ちゃんポストへ預けたケース。社会的地位のある不倫相手の男性が生まれた子を突然奪い赤ちゃんポストへ預け、その後母親が再度ひきとったが、男性の態度に絶望しその後無理心中したケース。
このあたりを読んでいると、30~40年前の自分の生殖活動が活発だった時代、思わぬ妊娠について相談する・される女ともだちの一人や二人がいて、中絶の費用をカンパ集めしていたときとの行動の違いにがく然とする。赤ちゃんポストに預けた女性たちは孤立しているのだ。そして「誰にも話してはいけない」と思いこんでおり、「いのちは大切」とも言うが実質の産み育てるための制度や助けを得られていない。
他方、事例から透けてみえる、男性側の身勝手さも際立つ。
ここ10数年のジェンダー・性教育バッシング後のさまざまな弊害が起きている、とわたしは考える。NHK取材班は赤ちゃんポストの10年を振り返り、必要な取り組みとして「妊娠・出産・子育てに関する若年齢層、特に男子への教育の強化」について指摘するが、これってどう考えても性教育だが、「性教育」というタームは意図的に使わない。
ゼロ歳ゼロか月の虐待死が多い日本で、産み育てるための支援がもっと必要となる。
韓国ではベビーボックスと呼ばれる同様の施設が2カ所設置されているという。韓国の慮恵璉教授の「内密出産の導入を急ぐよりも、貧困下にあり、社会的偏見にさらされているシングルマザーを取り巻く課題を解決し、支援を充実させることが先決だ」という議論がもっともしっくり来た。
もちろん、そのほかに、にんしんSOSのような悩みを相談できる窓口の設置や、里親精度や養子縁組制度などの改革、子どもの親を知る権利を守る取り組みも重要だ。
◆評者紹介
赤石千衣子(あかいし ちえこ)1955年生まれ。NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長。
主著『ひとり親家庭」(岩波新書)