旧聞ですが・・・以下の記事が9月21日自民党総裁選の日に、地方紙各紙に掲載されました。共同通信が配信したのは前日の20日。まだ結果は出ていませんでしたが、安倍晋三有利がほぼ確定していました。すでに3ヶ月近くになりますが、内容が古びていないので転載します。年末の締めくくりに、安倍政権を論じる記事が、まだ賞味期限切れになっていないのは情けないことですが。

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党内事情と国民世論との乖離 自民党総裁選に寄せて
 
こんなに長期政権になるとは…安倍晋三首相本人も予想していなかったにちがいない。政界復帰不可能な形で政権を投げ出した安倍氏が、自民党総裁選で辛勝したのは6年前。まさかの復活だったから、わたしは「ゾンビ復活内閣」と呼んだ。
そのゾンビが跋扈して、敵する者なしの自民党1強体制、安倍1強体制を作るとは。それまで日本の総理大臣は任期1年ほどで交代していたから、この長期安定政権は歴史的記録の一つになるだろう。
自民党が野にあったときに、彼らがしたたかに学んだのは、自民党という政党は政権与党であることにのみ、存在意義があるということだ。自民党にあって民主党になかったのは、この権力への執着だった。野党の四分五裂に比べて、異論があってもそれを封じる自民党の結束力の強さは、ここから生まれている。
かつて民主党に対して「自由」のない自由民主党だという揶揄があったが、今では自民党にも「自由」はない。派閥政治をなつかしむ声もある。小選挙区制は痛恨の極みだったという反省もある。だが政局運営の巧者ぶりはきわだっていた。
この6年間、安倍自民党は党利党略のために国政を振り回した。政局だけを見て「大義なき解散総選挙」を2回も行い、1回あたり600億円もの選挙費用を使った。
平気で何度も憲法違反を侵した。憲法学者が違憲と判定する集団的自衛権を閣議決定し、安全保障法関連法を強行採決で通過させた。憲法が保障した国会議員4分の1以上による国会召集の要請を無視した。官僚人事を手に収め、お友だちで内閣を固め、自分につごうのよい日銀総裁人事と法制局長官人事を強行した。
 そのあいだに何が起きたか?株価は上がっているが、株式市場に老齢年金の半分以上が投入され、一部の企業は日本政府が筆頭株主の国策会社になっている。金融の異次元緩和で国債が乱発され、今では債務が1千兆円以上、国民一人当たり800万円の借金を抱えている.。(注1)
デフレを脱却したというが、デフレ脱却とはすなわちインフレ。通貨価値は切り下がり、インフレは深く静かに進行している。(注2)高齢者の貯蓄は目減りし、貧乏人は苦しむ。
東日本大震災であれほどの被害を受けたのに、何も学ばなかったかのように、原発再稼働に踏み切った。あいつぐ災害による復興景気で公共事業主導型の土建屋政治が復活した。沖縄の民意を踏みにじり、米軍普天間飛行場の辺野古移設を強行しようとしている。雇用が拡大したと胸を張るが、増えたのは正規雇用より非正規雇用が中心だ。勤労者世帯の年収は伸び悩み、貧富の格差が拡大した。階層は固定し、日本はすでに階級社会だと指摘する論者もいる。
社会保障費を抑制せよという一方で、累進課税率と相続税率、法人税率は下がり、逆進性の強い消費税を引き上げた。企業と富裕層優遇の所得分配策をとってきたためだ。すべて政治がつくった人災というべきだろう。国会では、その場しのぎで逃げ切ればすむという内容空疎なやりとりが定着した。言葉の軽さと政治不信を国民に植え付けた罪は重い。
今度の総裁選は、そうした安倍政治への評価を問うものだった。再選され、「みそぎ」はすんだ、とすべてが無かったことにされるだろうか。
 議会内閣制のもとでは、自民党の総裁選は、内閣首班の選挙と同じである。選挙に参加できない者たちは、いっそ大統領制みたいに国民の直接選挙で国のリーダーを選ばせてくれ、という気分にもなる。だが、その結果が和製トランプだったら?…どちらが悪夢か、アタマを抱える思いだ。
 党内事情と国民世論との解離は大きい。国民の多くは森友・加計問題に納得していないし、9条改憲を望んでもいない。自民党への支持は、他の選択肢がないからという消極的なものにすぎない。
誰が首班になっても、少子高齢化や財政健全化、格差解消や持続可能な社会保障制度の維持など、難問が山積している。問題を先送りしてきたツケは、一体誰がどうやって払うのだろうか。

(注1)今度の100兆円越え予算案で一人当たり900万円になるという。
(注2)物価がゆっくり上昇していることに気がつかないだろうか。価格が同じでも、分量が減ったりしている。デフレ脱却を認めれば、異次元金融緩和策からの出口を求めなければならなくなる。野党に「デフレ脱却は起きていない」と責め立てられる方が、つごうがよいのだ、