
書 名 だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査
著 者 劇団雌猫
刊行日 2018年10月24日
出版社 柏書房
わたしのために書かれた本だ、と大興奮した。
<現実世界の自分がメイクやおしゃれをすることは「他人の要求に適った(かなった)自分になること」に思えて、どこか敬遠していた〉けれど、〈コスメや洋服が、なりたい自分への扉を開く「鍵」だと知れてから、日々自分をよそおう時間が、ほんとうに楽しいひとときになりました〉という、まえがきにまず「!」と付箋を付けた。自分で自分にはめていた枷がスパーンと外れるような強炭酸的読後感は、雨宮まみさんが「こじらせ女子」という天才的な言葉を発明したとき以来のカタルシスだ。メイクやおしゃれに自信が持てなかった自分は消え、ずいぶんと息がしやすくなった。
消してくれたのは、自分自身の「美」と「おしゃれ」について、率直に語る十五人。
叶美香ばりの化粧を毎日入念に施す人、女性アイドルにモテるために化粧とダイエットにはげむ人、自分のおしゃれにアレコレ言われたくなくて会社では平凡な格好をする人。自分の美意識を現在進行形で高めている女性たちが「おしゃれする理由」を詳細に語る匿名エッセイは、個々人の特殊性をこえて直接感情に作用してくる。わかる、わかるよ!と、ひとりひとりの話をなんども読み返し、付箋を貼りまくる。強さとカッコよさを煮詰めたような人たちの言葉は金言のオンパレードだ。
〈自分の顔は自分のもの。自分が楽しければいいのだ!〉─あだなが「叶美香」の女。
〈好きな服を着て楽しんでいるときが、自分が最も輝いている瞬間だと感じる〉─大人になってもロリータ服を着る女。
〈労働と美しさの調和〉〈ビューティが自分のモチベーションに前向きに作用してこそのワーク・ビューティ・バランスだ〉─仕事のために○○する女。
〈自分が好きでなにがいけないのだろう?〉〈自己肯定は最大の美容液〉─ドバイで奮闘する女。
おしゃれをするのも、しないのも自由。女性たちは、すっぴんでうろうろし、セクシーに装い、会社で擬態し、あるいは誰かを魅了しようと自己表現する。そこには選択肢があり、解放があり、平等がある。すべてが正しく私たちが謳歌する権利なのだ。自分が好きな自分を自己流で表現する女性たちの非常にパーソナルな欲望とこだわりは、すべて肯定される。ばらばらの価値観を持つ誰もがお互いを認めあう。あたたかいシスターフッドが詰まった本書に、読者もまた肯定されることだろう。
■松本芽久美(まつもと めぐみ)
1967年富山県生まれ。
北日本放送ディレクター、リサーチャー。
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