図書館が3時間半もの長時間にわたるドギュメンタリー映画の映写対象になったのである。タイトルもそのもの「ニューヨーク公共図書館(NYPL)」。評者などは一体何を見せられるのかという半信半疑もさることながら、3時間半もじっと座って腰が痛くならないだろうかとまずは、その心配。ただ元来の本好き、現居住地選びも図書館に近いことが理由となれば、何はともあれ出かけざるを得ないという次第であった。
「多少はモノを考えたい人は必見」以上、ピリオド、とはならなかった。3時間半、飽きもせず、腰が痛くもならず見通した。案ずることはありません。すばらしいドギュメンタリーフィルムであった。飽きなかったのは、これも図書館の仕事の範囲か、と驚くような、いってみれば社会教育任務も背負っているかのような多様な活動のせいである。ただ単に蔵書を見せられるなんてことはないのである。
映画は本館での「午後の本(Books at Noon)」から始まる。これはイギリスの生物学者R・ドーキンス博士のトークの企画。入り口近い場所に、誰でも簡単に入れる。彼のわかりやすい知的会話をここに載せられないのが残念。全92館の分館を要するそのうちの一つ、舞台芸術図書館ではピアノコンサートが。演奏曲はA・コープランド「田舎道を下って/Down a country lane」。上映時間が長いから、演奏も結構たっぷり。ブロンクス分館では、就職支援プログラムが行われ、消防署、国境監視員、軍隊、医療センター等のスタッフ自らが制服姿のままで説明会。チャイナタウンに近い図書館では、中国系住民のためのパソコン教室。求職はほぼパソコンを通じて情報を得るから、パソコンが操作できないといかにも不利である。地域住民による読書会の一端。みんな自分の意見をとうとうとしゃべる。自分とは違う意見が出されても慌てない。議論に慣れたものだ。話題はガルシア=マルケスの『コレラの時代の愛』。別の分館では、奴隷制と労使問題に関するレクチャー。…これって全部まさしく社会教育でしょう?
合間に幹部による会議の様子も入る。館長が予算の拡大化をとなえれば、持続可能性こそ大事という主任司書、民間の寄付こそ重要という渉外担当役員(※2019年4月9日、10日にゲスト来日の予定)の声。別の会議では、電子本か紙の本か、ベストセラーか推薦図書か、一般図書か研究図書かの議論。予算はかぎられている。ちなみに公立でなく公共とは、運営が半官半民で行われているからである。
そのせいかどうか、図書館では、なんとディナーパーティやファッションショー、結婚式までが行われるのである。そのドタバタ準備の様子も画面に。図書館としてのアイデンティティあらばこそ?
それにしても図書館本館はボザール様式の傑作と言われ、1911年の建設当時は米国最大の総大理石建築として話題をさらった。なるほど100年以上の歴史ある建築物である。3階のメイン・リーディング・ホールは、天井が高く荘厳という雰囲気がただよう。誰も言葉を発しない。私の近所の市立図書館は、書架の間の狭い閲覧室で、たまに子どもへの読み聞かせ時間がある。思わず、図書館の同じフロアーでそんなことしないでー、と言いたくなる。どこに行っても米国の図書館の静かさをよく知っている者としては。
本映画は一般人にとっても非常に興味深いが、全国各地の図書館スタッフに見てもらいたいと切実に願うものだ。彼/彼女らが、果たしてため息に終わるとしても。文化の瑳をこれだけ見せつけられては…。公式ウエブサイトはこちら。(河野貴代美)
5月18日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー!
タイトル:「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」
監督・録音・編集・製作:フレデリック・ワイズマン
原題:Ex Libris - The New York Public Library|2017|アメリカ|3時間25分|DCP|カラー
字幕:武田理子
字幕協力:日本図書館協会国際交流事業委員会
配給:ミモザフィルムズ/ムヴィオラ
コピーライト:© 2017 EX LIBRIS Films LLC – All Rights Reserved
映画公式サイト:http://moviola.jp/nypl/