書名 セクハラ・サバイバル――わたしは一人じゃなかった
著者 佐藤かおり
刊行年 2019年2月27日
版元 三一書房
定価 1620円
セクハラ被害を訴えることは今もって途方もない困難を伴う。訴えを断念させるような障壁が幾重にもどこまでも存在している。本書を読んで特に考えさせられたのはこの困難である。
私自身大学でのセクハラ防止対策システムや相談体制の構築に微力ながら関わって来たが、そうした制度が今もって機能しているとは言いがたい状況を思わずにはいられない。以前に比べて整備されたかのような行政や労働組合、などが被害者にとって役に立っているとはいえず、被害者を失望させ、二次被害を起こしかねないこと、労災の申請もまた大変な負担を被害者に強いること、などあまりにも大きな困難である。
2000年代に入ってなお、女性の性的被害は驚くべきほど軽視されている状況には本当にがっかりしてしまう。力を持つものの発言は根拠がなくとも信じられやすく、被害を被る立場の弱い者の主張は軽視され、疑いの目を向けられる。
佐藤さんが本書で語る自身の過酷な経験は、多くの女性にとって人ごとではない。
セクハラ被害それ自体の悪質さとそれが女性の生存を脅かす深刻なものであることは言うまでもないが、私が特に衝撃を受けたのは、相談すべき窓口がことごとくまともに取り合わなかったことである。雇用均等室、行政書士、労働組合の相談窓口、弁護士などがいずれも単に話を聞くだけで具体的な対応策を示してくれなかったし、労基署も門前払いのような対応で、期待しただけがっかりしてしまうことの繰り返し、という状況は、セクハラ被害それ自体にも増して、被害者を絶望させてしまう。深刻な健康被害と働く権利の侵害を理解せず、加害者にはあまりにも寛容な対応が今もなおまかり通っているとは驚くほかない。
被害者を黙らせる強固な構造が今日も私たちの社会を支配している。言っても無駄だと言う経験を繰り返すことがどれだけ被害者を落胆させ、力を奪うかが、佐藤さんの経験を通じて切実に伝わる。
しかし佐藤さんはセクハラ労災の認定を要求して3回の裁判を行なった。それを支えたのはウィメンズ・ネット函館の女性たちである。
この30年、確実に変化したのは女性自身である。被害者の力を奪い黙らせようとする強固な構造にも関わらず、女性たちは次第に黙らなくなってきた。3回の労災裁判を闘った佐藤さんの勝ち取った勝利と回復は、多くの女性たちを励ます経験である。女性の連帯が被害者を支え、尊厳をかけた闘いを可能にし、回復に至る過程は感動的である。
黙らなくなった女たち、そしてまだ怒りの表明をためらう女たちに、本書を読んでもらいたい。これから社会に出て行く大学生には必読の書である。