
本書に収録した論考は、夫婦別姓や育児やDVを自分自身の「個人的なこと」として受け止め、積極的に関与するなかで、「性/性別による差別と搾取と抑圧とを終わらせようという運動」に貢献しようとする一男性の立場から、「政治的なこと」を改めて学問的にも問い直そうと試みたものである。
序では、私が夫婦別姓、育児、DV被害者支援に関わるようになった経緯を簡単に振り返り、政治的なことを自己の問題ととらえるようになったプロセスを描く。
第Ⅰ部のテーマは夫婦別姓だ。第一章では、夫婦別姓をめぐる論争を取り上げ、香港で起きていた女性の平等継承権論争と比較して、人権思想に立脚した「伝統」の問い直しを論じている。第二章では、二〇一五年暮、夫婦別姓訴訟に関する最高裁判決について、その内容を分析し、古代ローマ以来の家父長制的法意識が判決に色濃く滲み出ていることを論じた。コラム1では、現在進行中のいわゆる「ニュー選択的夫婦別姓訴訟」の主張と、それに対するフェミニストの批判を紹介している。
第Ⅱ部のテーマは男性の育児だ。第三章では、男性の生殖に関わる健康問題について調べ、男性にとってのリプロダクティブ・ヘルス/ライツを考察している。第四章では、いろいろな調査データを眺め直し、男性の結婚観・育児感が変わってきているのではないかと問題提起したものだ。コラム2では、中央アフリカの狩猟採集民アカ人の父親の育児の特徴を簡単に紹介している。
第Ⅲ部のテーマはDVだ。第五章では、親密圏における暴力と愛情の混同を問題化し、男性が「支配者の甘え」を脱する必要性と可能性を論じている。第六章では、、DV被害者を加害者殺害にまで追い込む深刻なDV事案の分析を通して、「強圧的支配」というDVの本質を論じている。コラム3では、DV加害者とはどういうものか、どんな対策が必要なのか、短く論じている。
結では、男の武装解除と、女性と子どもの自由と独立を訴えて、本を結ぶ。
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