うざい、怖い、キモい、社会の敵――このサイトの閲覧者ならば、ネット右翼に対してこんな気持ちにさせられた経験が一度や二度は済まないだろう。私もその一人だが、ネガティブな感情が沸き上がる要因の一部は、ネット右翼の得体の知れなさによるのではないか。どす黒い感情がどこから湧いてくるのか、そしてどこから刺されるかわからない不気味さ、これを何とかできないかと思っていたのは私だけではなかった。ネット右翼の実像に迫ろうという研究者が同志を求めて邂逅を果たしたところで、この小さな本を刊行する運びとなった。
これにより、ネット右翼のどのような素性を明らかにできたのか。まず、ネットユーザーのなかでもせっせと投稿する人たちは2%弱にすぎない。しかし、botという自動投稿を駆使することで、少人数でもネトウヨ的主張を大量に垂れ流すから侮ってはいけない。自民党だってそうしたネトウヨ的手法を学んでいるのだ。
階層や学歴では特に偏りがないが、自営・経営者が多いのは、自由時間を使ってせっせと発信できるからだろう。年齢的には働き盛りから高年層にかけてが多く、また男性に偏っている。そして政治にはむしろ不満が少ない(安倍長期政権だから?)一方で、自らの社会的地位を実際より低く評価し、不安感もある傾向もみられた。ただし、若者が少ない、男性が多い、自営・経営者が多いほかは、特徴がある人たちとはいえない。
これだけではピンとこないので、Facebookのネット右翼を追ってみたら、見ない方がよかったものに行き当ってしまった。ネット右翼の可視的なサブカルチャー的背景として出てきたのは、ミリタリーオタク、武道、宗教だった。ネトウヨたちは嬉々として活動報告を投稿するが、これって戦前から続くファシズムの基盤じゃないか。さらに、ミリオタと武道はまさにミソジニーの世界で、こんな「古層」が出てくるとは思わなかった。
だから、ネット右翼というと今世紀に生じたすぐれて現代的現象のように思えるが、その化石のようなイデオロギーの少なくとも一部は、執拗に根を張ったものである。これにどう対抗するか、本の中では答えを出せていない。が、まず敵の正体を見極める必要があり、そうした目的にかけては決定版といってよい書籍なので、手に取っていただきたい。(樋口直人)
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