
「人間はほかの動物と比べると、同類間の破壊的な行動が際立って見られる種です。同類間で傷つけ合い殺し合う動物はほかにもいますが、人間ほどマス(大量)レベルで同類攻撃をする動物はほかにいません。そのような同類間攻撃行動のうち、何千年にもわたって止むことなく続いてきた人類のふたつの不名誉な伝統が、体罰と戦争です。このふたつには共通点がいくつもあります。」(第1章から)
著者は1979年からアメリカと日本で、虐待・DV・性暴力の被害者・加害者へのセラピストとして、虐待・DV・多様性・人権の専門職研修トレーナーとして、そして非戦を訴える非暴力活動家として、暴力とは何かを問い続けてきて40年目の本になる。
内容は、ざっとこんな感じだ。
1章 体罰と戦争の8つの共通点
2章 怒りの仮面(ここに虐待のトラウマを抱えた子どもたちの気持ちの絵と言葉12点をカラーで挿入)
3章 体罰とファシズム: ヒトラーの場合
子ども時代の屈辱/ヒトラーを支えた大衆心理
4章 ジェンダーと大量殺人:宅間守の場合
ジェンダーと暴力:女性・女子をねらう男/DV目撃と体罰の中で育つ
男らしさの虚像が唯一のよりどころ/情性欠如=反社会性人格障害
5章 体罰の6つの問題性と戦争の6つの問題性
6章 戦争とトラウマ
沖縄戦のトラウマ/なぜ日本ではトラウマ研究が忘却されたか
アメリカ戦争帰還兵のトラウマ/本多立太郎さんの戦争出前噺
7章 マイケル・ジャクソンの思想:子どもの癒やしは世界の癒やし
誤解され続けたポップ・スター/死後10年にも冤罪事件
「子どもをケアしよう」と呼びかけた平和と変革を謳う数々の名曲
父親からの体罰を告白/マイケルの子どもの人権尊重子育て論
あとがき:いのちを慈しむ知恵を次世代に手渡す
4月に刊行されて以来2か月間にマスメディアやFBで紹介されているが、そのどれもが「4章 ジェンダーと大量殺人:宅間守の場合」を引き合いに出して、川崎の無差別殺人と同じだとか、虐待の世代間連鎖だとかのスティグマを付与するだけの俗説を強調するのに閉口している。暴力は精神疾患でもなく世代間連鎖でもなくジェンダーなのだという主張をこれだけ明確に展開しても、聞きたくない人たちにはスルーされてしまう。
著者としては、最終章の「マイケル・ジャクソンの思想」を読み込んで欲しい。マイケルは子ども時代の深いトラウマを生き方の根底に据えて、暴力とは対極の慈しみと分かち合いのために生きることを選び、徹底して行動し続けた人の一人だ。彼の10周年忌がまもなくやってくる。マイケルがダイナミックな美しいアートにまで昇華させた希望のメッセージに本書を捧げたい。
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