日経電子版で公開されました。
〈続く〉以降については、以下からどうぞ!
■女性学は何もないところから始まった
■思考停止に陥るな
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO46128880U9A610C1I10000/
■一次情報をうのみにするな
――社会学者としてデータを扱う上で気をつけていることはなんでしょうか。
一次情報が正しいという前提で物事を考えてはだめです。データは作られる過程でいくらでも恣意が入るものだから、うのみにしてはいけません。また、データは変化します。「ファクトフルネス」は、人々が持つ「頭にインプットされた古いデータを更新しないという癖」を指摘しながらも、一次情報そのものの検証が不十分です。
一次情報が作られる過程をドメスティックバイオレンス(DV)を事例に説明しましょう。私が女性学の研究を始めたころには、DVに関するデータなんてありませんでした。そのころDVは世間では「痴話げんか」と認識されていましたからね。
DVに関する国際ランキングが国連によって初めて発表されたのが1995年。国には統計がなかったので、日本政府は民間の調査を紹介し、それがランキングに反映されました。その結果日本人女性のDV経験率は59%とエクアドルの低所得層並みの数字をさらすことになり、政府に衝撃を与えました。
実はこの民間の調査方法は口コミで回答者を広げていくスノーボールサンプリングと呼ばれるもので、回答率は上がるけれどバイアスもかかりやすく、科学的調査とは言えませんでした。しかし、当時の政府担当者が「政府にはないが民間にある」と紹介したために、国連もその数字を採用してしまった。このような偶然とも言える要因で、一次情報として数字が流通するんですよ。そうやって考えると、他の国のデータだってどう作られているのかわかったものじゃない。
ちなみに59%という数字に衝撃を受けた日本政府は、その後ランダムサンプリングという科学的調査でDV調査を行いました。その結果、2005年の日本人女性のDV経験率(身体的暴行)は26.7%というアメリカとカナダの中間、つまり先進国標準並みという結果がでました。民間の調査があったからこそ、日本でDVに関する調査が行われるようになったのです。
データを読み取る際にも気をつけなければなりません。日本のDVに関する調査はその後も実施されています。DVの申告数は増えていますが、これは日本の男性が暴力的になったことを意味するでしょうか。DV申告が増えたからといって暴力をふるう男性が増えたわけではありません。過去のデータがないのでDV自体が増えたかどうかは何ともいえません。では申告件数が増えたことから言えることは何でしょうか。これは臆測にすぎませんが、DVはかつてもあったが、受忍しなくなった女性が増えたということです。DV申告数のデータには女性の変化が如実に表れています。これがデータを正しく解釈するということです。〈続く〉
■女性学は何もないところから始まった
――研究に必要なファクトをどうやって集めているのですか。
――最近注目しているファクトはありますか。
■思考停止に陥るな
――一般のビジネスパーソンはデータを作るより、見るほうが多いです。データを見る際、どういった点に注意すべきでしょうか。
2019.06.26 Wed
カテゴリー:WANの活動
タグ:DV・性暴力・ハラスメント / フェミニズム / DV / アンペイドワーク / 女性学、メディア、教育、ジェンダー学