樋口恵子の人生案内『まえ向き長持ち人間関係の知恵』 樋口恵子著 海竜社 2019年4月発行

 樋口さんの人生案内欄(読売新聞10年間の連載)の名回答が1冊の本にまとめられました。読者から寄せられた悩みの数々、それは誰もが直面しがちな悩み事、多くは、ごく身近な人との人間関係です。人づき合いの悩みやストレスは、結構長期にわたることが多くて深刻です。「人生100年時代、引きずっていては悩む時間も長くなるばかり、仕切り直して未来志向で生きましょう」と著者は勧めています。

 人生100年時代となって寿命が延びれば、身近な人との間係も長く続きます。お悩み事も一緒に長引かせては大変です。友人やご近所との関係はいったん悪く回りだしたら、遂には訴訟沙汰にもなりかねません。結構長い期間、不快な日々を過ごすことになるかもしれません。周りの人に良かれと考えてした行動が、かえって事態を悪くする結果になってしまう事もあるのです。著者は、長引く悩み事には、自分の判断できっぱりと決断し、行動をすることも必要だといいます。解決に向かうには、解決に至る時期もご自分で見極めるしかないようですが、その大事な決断のときを示唆してくれる回答も。

 親子・親族関係についての悩みは、昔から沢山書かれて来ましたし、周りにもあふれています。しかし、今ではそれに加えて長寿社会ならではの悩みが増えているようです。気がかりな老親の病気や怪我や認知症などのこと、親にせよ自分のことにせよ、介護問題もいつかは出会うものという覚悟は必要でしょう。この本にも介護のことで問題が出てくる家族の例がいくつか出てきます。

 この本の相談者が抱える親の悩みの例をあげれば、愚痴っぽい母にうんざりする娘、小言が多い親、悪口を言う姑、中には同居の義父に抱きつかれる嫁などなど、ひとりでは解決できない悩みごと、放っておけばなお一層深刻になってしまう例も少なくありません。

 トラブルの種も様々ですが、「ダメ夫」の項の相談では、「どうしてこんな男と暮らしてるの?」と、逆に疑問をぶつけたくなってしまうほどの例がずらり。「子どもが育つまで」とか、「私が悪いのではないか」「私さえ辛抱すれば」という女性たちの存在にも驚いてしまいます。こんな女性が現在でも結構大勢存在し、悩み深い日常を送っているとは残念です。

 人々の性格も環境も暮らし方も千差万別、人と人との考え方や暮らしの「ずれ」から起こってくるのが、さまざまな人間関係の悩み。だからこそ、そんな多様なお悩みが次々に起こって来るのは仕方のないことかもしれません。だからと言って、悪い方向に展開してゆく関係性は、早く打ちきりにして爽やかに生きたいものですね。

 著者は、こうした困った関係に陥ってしまった人たちに、一人ひとりの個性を読み取って、その人に合った実にうまい方策を提案。相談者に対して、あくまでその人の立場に立って優しく受け止めながら、相談者ご本人に、発想の転換を厳しく促している回答にも出会いました。こんな愛情のこもった名回答には、思わず手を叩きたくなります。

 孫と祖父母、夫婦、嫁姑、兄弟姉妹との関係では、もともと小さな不満だったものが、長い同居が続くことなど、近い関係が続いているほど、歯車が狂い始めれば、悩みは深まってしまいます。些細なことから長期間不仲になってしまう親子や兄妹の話など読むと、一日も早い解決策を見つけてほしいと思います。職場やご近所などとの関係も、この本にある例なども含めて聞くことが多いのですが、毎日顔を合わせる人たちだけに、修復にはひと工夫必要なのかもしれません。

 この本には「老いらくの恋」の項目も入っています。高齢社会ともなると、恋愛年齢が90歳という方も。90歳にして恋愛感情が沸くのもめでたいことではありますが、やはり“詐欺にはご用心を”という言葉を付け加えねばならないとは、せち辛いことで残念です。

 この1冊の本から、沢山の人生を覗かせて貰った気分になりました。なるほどと思われる解決策には、著者のユーモア感覚が効果的に使われているのに気付き、さすが“言葉の達人”の回答だと感心しました。

 この本の回答は、本当に素晴らしいと思います。どの回答も質問者に温かく寄り添いながら、問題の核心をズバリとついて解決への糸口を指し示しています。また頭の中を整理して切り換える術も教えてくれる優れものです。すぐにもお役に立つでしょう。(中西豊子記)

樋口恵子の人生案内 前向き・長持ち人間関係の知恵

著者:樋口 恵子

海竜社( 2019-04-04 )