わたしも、昔は子どもでした。

かもがわ出版( 2019-08-13 )


【香山リカ・池内了・長野ヒデ子・鈴木宣弘・池田香代子・ピーターバラカン・津田大介・上野千鶴子・有原誠治・大石芳野・宇都宮健児・糸数慶子・中野晃一・永井愛・さいきまこ・金子勝・落合恵子】 この本には、「ものいう」おとなたち17人の子ども時代の話が収められています。作家、学者、写真家、弁護士、議員、漫画家、ジャーナリスト…。「ものいう」方法はいろいろですが、理不尽な抑圧にあらがい、より多くの人たちにとって生きやすい世の中になるよう、声をあげているおとなたちです。 
子ども時代は、人生の土台をつくるとき。どういうおとなに出会い、どういう環境に身をおき、どういう仲間とともに育ったか。楽しい経験はもちろんですが、悲しかったり、悔しい思いをしたたことが、物事を深く考えたり人に親切にできたりという人間的成長につながることもあります。
われらが上野千鶴子センセイは、娘ということで期待されないかわりに溺愛され、「ガマンを教えられなかった娘」でした。高校時代、最初に入ったバドミントン部は素振りしかやらせてくれないので「ガマン」せずさっさと退部。新聞部に入り浸っていました。「女性差別」のおかげで謳歌できた子ども時代。でも、そこでガマンすることがなかったからこそ、しなくていいガマンをするツラさが人の何倍も骨身にしみ、それを打開するエネルギーもまた生まれてきたのかも…しれません。
「親がよかれと思って子どもに介入しても、うまくいくかは紙一重」(金子勝さん・経済学者)。子どもは子ども、親の思うとおりには育たない、ということも多くエピソードから伝わってきます。子育ての自己責任化が進むいまだからこそ、「子育ては親だけでは絶対にできません。…もっと周りの人たちに助けてと言っていいし、迷惑をかけていいのです。」(池田香代子さん)という言葉を、みんなで共有していきたいと願います。

おひとりおひとりのエピソードに、挿絵を描いてくださったのは松本春野さん(イラストレーター・絵本作家)。優しいタッチで、読む人の心をなごませてくれます。これからの秋の夜長を、ぜひ本書とともに。
(伊藤知代・編集者)