
「米騒動(こめそうどう)」は、広辞苑(第7版)によると次のように書かれている。「1918年(大正7)7~9月、米価の暴騰のため生活難に苦しんでいた大衆が、米の廉売を要求して米屋・富豪・警察などを襲撃した事件。富山県魚津に起きて全国に波及し、労働者・農民を主力とする未曾有の大民衆暴動に発展、軍隊が鎮圧に出動した。この事件で寺内内閣が倒れた」。わたしたちが知っている内容も、ほぼ同じようなものだろう。
この米騒動(ついでに言うと、広域的な米騒動はこれ以前にも起きており、大正7年のものは3度目だと言われている)は、最終的に全国の1道3府38県、600か所以上に広がった。総勢70万人を超える民衆が声を上げ、ある地域では暴挙に出て、2万5千人以上が検挙されるほどの事件となった。その発端となったのが、富山県魚津の、女性たちの起こした行動だったのだという。
映画『百年の蔵』は、米騒動から100年目となる節目に、魚津の人々によって作られたドキュメンタリーだ。魚津で起きた米騒動の知られざる真相をさぐり、史実を正しく伝え、後世に残すことを目的としている。映画では「米騒動のことは、なんとなーく知ってる(つまり、わたしたちと同じで、詳しくは知らない)」という地元の高校生たちを中心としたメンバーが、魚津に残る米騒動の痕跡をたどっていく。
彼らが、当時から残る蔵の持ち主や当事者たちの子孫を訪ね、残された資料にあたっていくうちに、少しずつ、真相が明らかになっていく。発見されるのは、へぇそうだったのと、胸がすくような、声をあげ行動した女性たちへの敬意と感謝も生まれる事実である。と同時に、北陸の厳しい環境で漁をして生計を立ててきた人々の暮らしぶりや(お魚、めっちゃおいしそう!)、漁師の妻たちの生きる姿勢と覚悟、コミュニティのつながりなどの生活史も鮮やかに浮き上がって見え、興味深い。最後に映される、ユネスコ無形文化遺産に登録された魚津の伝統行事「たてもん祭り」も、豪快で見ごたえがある。
当時の新聞には、魚津に続き富山各地で起こった女性たちの行動に対し「女一揆」「女軍」といった言葉が飛び交う。それだけを見れば、暴力的で過激な女たちのイメージが浮かぶのは当然のことだろう。わたしはこの新聞記事に、かつてウーマン・リブの女性たちがメディアに取り上げられたときの、揶揄するような、侮蔑的な書かれようを思い出してしまった。これについては映画で、新聞社の中の一人が控えめなコメントをされるが、当時の男性記者にとっての「女性が集団で事件を起こしたことへの驚き」だけがそう書かせたとは、わたしには思えない。
さらに映画では、当時の新聞報道に対して、寺内内閣から米騒動の報道を一切禁止する通告が出されたことも明かされる。抑圧的な内閣に反発したジャーナリズムと民衆(内閣が抑圧的なのは今も同じだけど、ジャーナリズムはいったい、どちらに寄り添っているんだろう)によって内閣が倒れたと言われるが、当事者の女性たちはそのような波にも翻弄されたのだと分かる。
誤解を受け、あるイメージやレッテルを貼られた女性たちにとって、特に性別役割分業と女性へのこうあるべきという固定したイメージが色濃く残るコミュニティの中では、その「事件」の当事者であることが名誉なはずはない。この映画の制作が、彼女たちの名誉回復にも一役買ったのだとしたら、それはとても、心から喜ばしいことであるし、地域の人たちの尽力でそのような作品が作られたことも素晴らしい。そのうえで、100年という年月の長さを思う。個人的には「漁師のかあちゃん」として生きること、その「心意気」に秘められた、幾重もの感情にも思いをはせる作品である。公式ウェブサイトはこちら。(中村奈津子)
現在、全国各地で公開中。9/14(土)より名古屋シネマテークにて公開!
語り:佐藤B作 出演:富山県魚津市の方々・魚津の高校生ほか 監督:神央
プロデューサー:三浦庸子・北村皆雄
制作:『百年の蔵』映画製作委員会 ヴィジュアルフォークロア
2018年/99分/DCP・BD
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
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