
19世紀の北ベトナム。美しい渓谷の先にある、絹の産地を治めている大地主ハン(レ・ヴー・ロン)のもとに、14歳のメイ(グエン・フオン・チャー・ミー)が嫁いできた。一族が暮らす大邸宅には、婚期が近づいてきた一人息子のいる第一夫人のハ(トラン・ヌー・イエン・ケー)と、3人の娘をもつ第二夫人のスアン(マイ・トゥー・フオン)がおり、メイはそこで第三夫人として暮らすことになった。

自分が、この土地でどう生きることになるのかをよく理解していないまま、メイは夫となる人を受け入れ、やがて妊娠する。ふたりの妻たちはまだ年若いメイを温かくむかえ入れ、とくにスアンはメイを妹のようにかわいがり、日常のあれこれや妻としてのふるまい方までを手ほどきしていった。だが、メイは次第に、ふたりの妻たちが「跡継ぎとなる男児を生んだか否か」だけで異なる扱いをうけていること、ハとスアン、それぞれにふかく秘めた事情や口にできない感情があること、そして出産を控えた自分が、いつしか積極的に男児を望み、哀しい競り合いの中に身を置いていたことに気づいてゆくのだった――。
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本作は、ベトナム出身の新鋭、アッシュ・メイフェア監督による長編デビュー作である。彼女はニューヨーク大学在学中に、自身の曾祖母が体験した実話をもとに脚本を書いた。その脚本が「2014年スパイク・リー プロダクション ファンド」を受賞するなど注目され、スパイク・リー(『ブラック・クランズマン』監督)自身も彼女の才能を絶賛、制作資金を援助したのだそうだ。制作にあたっては、トラン・アン・ユン(『青いパパイヤの香り』『エタニティ 永遠の花たちへ』監督)が美術監修に入っており、彼の作風も感じさせる。メタファーが多用された、説話的な世界を堪能できる作品だ。
家父長制にもとづく一夫多妻制の中で、父親によってイエとイエの取引の道具にされ、そこから逃れるすべのない女性たちがどのような葛藤を抱えることになるのかは、想像に難くない。日本もまた、ひと昔前まで、結婚した女性は男児を産めなければ不合格の烙印を押されたものだった。「妾をもつ」という、一夫多妻制と同様の振る舞いが男性だけに許されていたのも、遠い昔のことではない。本作のパンフレットには、上野千鶴子さんの「『籠の鳥』として生きる」というエッセイが寄せられている。日本の「籠の鳥」に思いを寄せる本文を読むと、「女の生」を強いられた女たちの哀しみにため息がでる。是非、映画と合わせてお読みいただきたい。

本作は、2014年に世界遺産として登録されたベトナムの秘境、ニンビン省チャンアンを舞台に、実に5年をかけて撮影された。まるで桃源郷のように美しい景観の中で、「昔話(今はないこと)」として物語が繰り広げられる。
メイフェア監督は、自由に生きることを否定された女性たちの諦念、深い葛藤や哀しみを、女たちの争いの物語にせず、女たちを見世物にすることなく描いた。ことさら、この時代の慣習を否定する素振りもないのだが、第二夫人のスアンと不倫関係にあった、当家で唯一の男児ソンのもとに嫁いできたトゥエット(ファム・ティ・キム・ガン)の悲劇や、スアンの二女ニャンのラストシーンに映る未来への希望の描き方に、古い社会との決別の意志を静かに、力強く感じる作品だ。公式ウエブサイトはこちら。(中村奈津子)
2019年10月11日(金)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
監督:アッシュ・メイフェア
撮影:チャナーナン・チョートルンロート
アーティスティック・アドバイザー:トラン・アン・ユン
出演:トラン・ヌー・イェン・ケー、グエン・フオン・チャー・ミー、マイ・トゥー・フオン(Maya)、グエン・ニュー・クイン
© copyright Mayfair Pictures.

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