16歳のスエーデンの少女、グレタ・トゥンベリさんの迫力には圧倒されました。ニューヨークの国連本部の気候行動サミットでの演説です。テレビのニュースでみた、そのにらみつけるような表情と力強いスピーチにです。翌日の朝日新聞の記事からその演説を引用します。(朝日新聞2019年9月25日1面・11面)
「私たちはあなたたちを見ている」と言い始めて、各国代表をにらみつけるように見ながら7秒間沈黙。そして「全てが間違ってる。私はここにいるべきじゃない。海の向こうの学校に戻るべきだ」「若者たちはあなたたちの裏切りに気づき始めている。私たちを見捨てる道を選ぶなら、絶対に許さない」「まさにここで、まさにいま、私たちは一線を引いた。世界は目覚めつつある。そして、変化は起きつつある。あなたたちが好むと好まざるとにかかわらず」と5分間の演説を締めくくったのだそうです。
グレタさんは、気候変動の危機が迫っているのにだれも行動を起こさないのに我慢ができなくて、去年の8月、スエーデン議会の前で「学校ストライキ」を始めました。その後今まで、毎週金曜日に議会の前で座っているそうです。
初めはその行動サミットに不参加を唱えていたトランプ大統領が不意に会議場に姿を現したとき、グレタさんとニアミスになったそうです。そのときの写真も新聞は載せていますが、グレタさんは、きっと目を見開き、怒りをこめた表情でトランプをにらみつけています。
たった1人で金曜日デモを始めて1年間も続けてきたその意志、「私はここにいるべきじゃない。海の向こうの学校に戻るべきだ」、つまり、自分は学校ストライキをしているが本来は学校で勉強したいんだという高校生らしい率直な気持ち、そして「私たちを見捨てる道を選ぶなら、絶対に許さない」と言い切った強いことば。
このまっすぐさ、率直さ、力強さ―16歳の少女にわたしは全く脱帽するしかありません。前後左右を見渡してあれこれ憶測したり忖度したりして、どうせ言っても無駄だから、もっと効果的な方法を選んだほうがいいとかなんとか理屈をつけて、余計な知恵ばかり豊かになって、動きもしなくなっている…、わたしに突き付けられた剣でした。
そして、17歳の棋士、上野愛咲美(あさみ)さんのことばには、「よくぞ、言ってくれた」と絶賛します。
正直に言いますが、わたしは、将棋と囲碁についてまったく知りません。その勝負のルールも、強さの順位も、どういう試合があって、だれが一番強いのかも本当に知りません。どうして、いまだに「女流名人」なんていうことばを使っているのだろうぐらいしか興味もなかったのです。今回上野さんが活躍して新聞テレビが騒ぎたててくれたおかげで、上野さんという素晴らしい17歳女性の存在を知りました。
上野さんは「年齢や性別を問わない一般棋戦」で、最初は優勢だったのに、途中で逆転され、あと一歩のところで優勝は逃したのだそうです。「年齢や性別を問わない一般棋戦」で準優勝した、というところをみると、いつもは男性同士、女性同士、また同じくらいの年齢の人同士で戦うらしい、それが今回はそういう差別扱いのない戦いだったらしい、そしてその一般棋戦で、決勝戦に進んだ初めての女性らしい、そしておしくも優勝を逸して準優勝になったらしい…。なんでも「らしい」で恐縮ですが、知識不足で、言いきれないのです。その決勝戦翌日の新聞のインタビュー記事に、わたしは大拍手をしました。
結果がすべての世界。性別は意識しない。男が女より上回っている点は?
「特にない。強い人は強い」。(朝日新聞2019年9月24日2面「ひと」欄)
「男が女より上回っている点は?」と聞く方も聞く方です。男性記者の署名入りの記事です。女性記者だったらこんな聞き方はしないでしょう。でも、そういうアナクロニズムの質問をしてくれたからこそ上野さんの明快な発言を引き出せた、いわば怪我の功名質問かもしれません。
「特にない。強い人は強い」
この断言の明快さ、よくぞ言ってくれました!!
医学部入試の女性差別を思い出します。試験の点数だけだと、男性が少なくなり、女性が多くなりすぎるので、なんとか理屈をつけて男性を多く取ろうとしている例はそこここにあります。そういう人に言いたいのです。試験などで選抜する時、「強い人は強い」式に選びましょう。極めて単純明快です。変な理屈を考える手間も暇も要りません。「強い人は強い」で選べば、女性はもっと、いろんな分野に進出して活躍できます。女性はもっと輝けます。ことばだけの政府の「女性の輝く社会」よりずっと実効性があります。
「強い人は強い」の発想は、なんとかして、女性を男性より上に立たせないように、優秀な女性を活躍させないようにしている日本の社会に風穴を開けてくれるでしょう。
この9月下旬、16歳と17歳の女性のことばは、ほんとに力強く、勇気と希望を与えてくれました。拍手と感謝でいっぱいです。
2019.10.01 Tue
カテゴリー:連続エッセイ / やはり気になることば