「バオバオ」は中国語で「宝宝」と書き、「赤ちゃん」を意味する。本作は、台湾出身でロンドンに住んでいる二組の同性カップルが、互いに協力して「妊活」をする物語である。台湾政府が1976年に創設した映画の脚本コンペで、2015年に優秀賞を獲得した脚本の映画化だ。

台湾では2017年に、憲法裁判所に相当する司法院大法官会議が「同性婚を認めないのは違法」と判断したことをうけ、台湾政府は2019年5月24日までの法改正(民法の改正、もしくは新たな法律の制定)を義務付けられていた。その結果、2019年5月17日に同性間の結婚の権利を保障する「特別法」が可決されたことは、日本でも大きなニュースとなった。台湾が同性婚を認めたのは世界で26番目、アジアでは初めてのことだ。

だが、この特別法の制限のひとつに、養子縁組の際の条件がある。どちらかの実子を除き、養子縁組は認められていない。ちなみに男女のカップルには制限はなく、この「差」はどう考えても理不尽だ。本作を見ると、そのことを強く思わずにはいられない。


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シンディ(蕾艾美 エミー・レイズ)とジョアン(柯奐如 クー・ファンルー)はレズビアンのカップル、チャールズ(蔭山征彥 カゲヤマ ユキヒコ)とティム(蔡力允 ツァイ・リーユン)はゲイのカップルだ。4人とも今はロンドンで暮らし、自分たちの子どもが欲しいと思っている。その2組の同性カップルが、協力して妊活を始めた。

しかし、試行錯誤と葛藤のすえ妊娠したシンディは、ある出来事に絶望し、一人ロンドンから実家のある台湾へ戻ってしまう。

台湾に戻ると、シンディは幼馴染の警察官タイ(楊子儀 ヤン・ズーイ)に、自分を匿ってくれるよう頼みに行った。昔から密かにシンディを想っていたタイは、彼女を気遣い、やがて自分がお腹の子どもの父親になると言い出すが――。
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この物語で「妊娠・出産」を引き受けるシンディは、フェミニンな外見の繊細な芸術家で、ジョアンはシャープな印象の、自己を主張するタイプの企業人だ。映画ではジョアンがいつもシンディをリードし、経済的にも支え、彼女を守る側にいる。その人物設定のせいで、「ステレオタイプな異性愛カップルの男女を模したカップル」に見えてしまうところに、少しだけ落胆した。体が弱いシンディが、不安を抱えたまま「孕む身体」を引き受けることも描かれているが、彼女に負荷を背負わせる理由は明言されない一方で、「ジョアンが働いて経済的に家族を支えなくてはいけない」ことは語られる。もし、それが、ジョアンが産まないことの理由なら、これまた男女のカップルの普通だとされてきた(もはや普通じゃないですけど)性別役割分業を踏襲していることにならないのだろうか。新しい「フツウ」の家族をつくる二人なのに?

それに比べれば、チャールズとティムのカップルの、ジェンダー規範に収まらないプライベートな関係性の描写は魅力的だ。だが、この作品は、チャールズとティムにあえて悲劇的な未来を用意している。ゲイのカップルが子どもを抱くシーンを、本作では夢でしか見ることが叶わない。

大ヒットした『キャロル』(2015)や、盲目のゲイの高校生がクラスメイトに恋をする『彼の見つめる先に』(2014、これ、わたしが大っ好きな作品のひとつです!)など、幸福感に満ちたエンディングが用意されている同性カップルの物語は、確実に増えてきている。だが、結婚や子どもを持つということになると、それが台湾であっても、まだ楽観的には描けないということかもしれない。

人間の内面が外見からは決して把握できないのと同じで、「普通に見える家族」のほとんどが、その内実は普通という言葉では括れない。本作で、ジョアンとシンディ、ティムとチャールズの、互いへの愛の深さに触れながら、「フツウ」ってなんだろうと考えてみるのもいいと思う。きっと彼らが、子どもを持てない理由なんてないことが了解できる。そこにある愛を、ただ認めるだけのことが、なぜわたしたちの社会ではできないのだろうと思うはずだ。公式ウエブサイトはこちら。(中村奈津子)

9/28[土]~新宿K's cinemaほか全国順次公開!愛知:10/12(土)~名演小劇場、大阪:10/19(土)~第七藝術劇場

監督:謝光誠(シエ・グアンチェン)≪第1回長編監督作≫
出演:蕾艾美(エミー・レイズ)、柯奐如(クー・ファンルー)、蔭山征彥(カゲヤマ ユキヒコ)、蔡力允(ツァイ・リーユン)、楊子儀(ヤン・ズーイ)
2018年/台湾/97分/1:1.85/原題:親愛的卵男日記 英題:BAOBAO
配給:オンリー・ハーツ、GOLD FINGER
後援:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
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