みのり(萩原みのり)は21歳。両親はすでに他界し、鎌倉で祖母と一緒に暮らしている。高校を出てから定職につかず、今は、喫茶店で週4日のアルバイトをしていた。それ以外はスマホゲームで時間をつぶすか、友人と近場へ遊びに出かけるか。家では世話をしてくれる祖母に甘えっぱなしで、特に将来のために何かをするでもなく、狭い範囲の中で日常を送っていた。

いつも仏頂面で愛想がなく、正論が通じない相手には真っ向から喧嘩を売り、平気で周囲の人間に不機嫌さをまき散らすみのりだったが――。

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本作は、監督・俳優養成スクール「ENBUゼミナール」が提供するワークショップ≪シネマプロジェクト≫の第8弾として、2018年に製作された2作品のうちの1作である。監督は、自身が監督・脚本・編集・主演をつとめた劇場デビュー作『枝葉のこと』が第70回ロカルノ国際映画祭のコンペティション部門に出品されるなど、国内外で注目を集めている二ノ宮隆太郎。『枝葉のこと』で自分自身が体現していた、不器用にやり過ごすしかない、くだらない自分とくだらない日常への鬱屈した気持ちを、本作では「女の子」を主人公に描いている。

物語の冒頭から、合コンで出会った男に乱暴されかけた親友のために、その男に謝罪を迫り、背中から飛び蹴りまでくらわせるみのり。彼女は、おかしいと思ったことを言葉にできる人間だが、はなっから喧嘩腰のせいで、相手にはうまく伝わらない。罵倒された相手も同じように息巻くか、みのりを変人扱いし自分を正当化するか、反対にみのりの激しさに言葉を失うかのいずれかだ。彼女は、整っていて目立つ容姿であるがゆえに「美人」の枠に入れられ、男たちに称賛を受けたり、反対に女友達から合コンのダシに使われたりしていることにも苛立っているが、それを理解されることもなく、孤独をさらに深めているようにも見える。

映画は、そんなみのりを中心に、登場する若者たちの様子を長回しのカメラでしつこく描写していく。出てくるのは、ナンパ、いじり、合コン、いじめ…と、<くだらないこと>にエネルギーを注ぐ人間ばかりだ。どの登場人物の物語も回収されないまま、次から次へと差別意識をまとった人たち(特に、男女問わずミソジニー――女性嫌悪、女性蔑視――を内面化してる人がたくさん出てくるのは、本作の主人公が女性だからかもしれないですね…)が登場する本作は、率直に言って愉快ではない。だが、そのくだらなさや不愉快さが、みのりの苛立ちに輪郭を与え、わたしたちの心の傷あとをも刺激する。

「愛嬌があり怒りを表現しないこと」が、もっぱら女の子に求められてきた社会で、みのりのように喧嘩っ早いのも不機嫌であることも全然悪くないよね、とは思う。でも、くだらないと思う世の中や誰かに唾を吐いてきた不機嫌さの在り処が、実は自分の中にあったのだと気づいたら、そこから自分自身や、世の中との向き合い方を選ぶことができる。相も変わらず内向きで、差別やミソジニーに満ちた日本にいる、たくさんの「お嬢ちゃん」たちにも、この映画が届くことを願ってやまない。公式ウエブサイトはこちら。(中村奈津子)

現在、新宿K's Cinemaにて上映中!その他、10月26日(土)より愛知・名古屋シネマテーク、大阪・第七藝術劇場など、全国順次公開!

監督・脚本・編集 二ノ宮隆太郎
撮影監督 四宮秀俊
サウンドデザイン 根本飛鳥
助監督 平波亘
ラインプロデューサー 鈴木徳至
ヘアメイク 河本花葉
スタイリスト 阪上秀平
スチール 伊藤奨
アソシエイトプロデューサー 黒川和則、 児玉健太郎、 里吉純
プロデューサー 市橋浩治
出演  萩原みのり、土手理恵子、岬ミレホ、結城さなえ、廣瀬祐樹、伊藤慶徳、寺林弘達、桜まゆみ 植田萌 柴山美保、高岡晃太郎、遠藤隆太、大津尋葵、はぎの一、三好悠生、大石将弘、小竹原晋、鶴田翔、永井ちひろ、高石舞、島津志織、秋田ようこ、中澤梓佐、カナメ、佐藤一輝、中山求一郎、松木大輔、水沢有礼、高橋雄祐、大河内健太郎、今岡瑛子、戸澤雄一

2018年/130分/スタンダード/カラー/モノラル ©ENBUゼミナール

※「ミソジニーってのがイマイチよく分からないんだけど」っていう方は、この本がお勧めです。

女ぎらい――ニッポンのミソジニー

著者:上野 千鶴子

紀伊國屋書店( 2010-10-06 )