今年で25回目を迎える市民参加の「KAWASAKIしんゆり映画祭」で、慰安婦問題を扱った映画『主戦場』の上映が取り下げられていたことがわかったのは、映画祭開催を3日後に控えた10月24日の朝日新聞の記事でした。
(→ https://www.asahi.com/articles/ASMBS3RSXMBSUTIL010.html)
私は、自分の映画を出品していたこともあり、映画祭事務局へこの件について問合せ、経緯を聞きました。そこでの説明は、慎重に協議した結果、主戦場を上映する際に起きるかもしれないトラブル対応、安全対策を十分にとることができない、と判断したとのことで、行政からの強制があったわけではなく、自主規制だったと理解しました。しかしその後、映画関係者から聞こえてくる断片的な情報をつなぎ合わせていく中で、景色はどんどん変わり、10月27日にFacebookに投稿された『主戦場』を配給している東風の見解を読み、映画祭執行部への信頼を完全に失いました。
(→ https://bit.ly/36h2W2q)
「映画祭の上映プログラムの選定は、発案者によるプレゼンテーションとボランティアスタッフを含めた映画祭スタッフ全員による投票という極めて民主的な手続きによって行われた」にも関わらず、上映取り消しについての協議は、ごく一部の人間によって進められ決定が下されたとのこと。映画祭執行部から、上映発案者や実務を担っているスタッフに対して、上映取り下げの協議が共有されていなかったということは決定的です。
また電話で受けた説明では、川崎市からは「裁判になっているようなものを上映するのはどうか」との意見は伝えられたが、あくまでも主催者が判断したことで介入ではなかった。資金も半額近い600万円を市が負担しているが、もともと市民ボランティアで成り立っているので、そのお金が出なくなっては困る、ということが判断に影響していることはない、とのことでした。もちろん建前としての説明であることはわかりましたが、下記の文面に本音が記されています。
〜川崎市当局からの『主戦場』上映に対する「懸念」は、「1)明示的ではない言い回しで 2)メールや文書などの証拠が残らないかたちで 3)しかし、かなりの強さをもって」示されている。そのため映画祭も対応に苦慮しているということ。そして予算のおよそ半分を負担している川崎市との関係悪化は映画祭の存続に関わることだという認識を話していました。〜
川崎市との関係悪化をおそれて、映画祭スタッフの投票によって選ばれた作品の上映取り消しを、執行部の独断で決定した、ということになります。上映したいという発案した人、それに賛同して投票した人、そうして選ばれた作品を上映する責任、上映するためにできうる限りの策を講じる努力、これらを蔑ろにし、放棄したということです。
映画祭への抗議として、白石和彌さん、井上淳一さん、若松プロダクションの連盟で2作品の上映が取り下げられました。井上さんのFBでの投稿では、「今こそ連帯を」「映画祭での上映を止めない映画や製作者は、ごく控えめに言って、クソです。」とのコメントがあり、とても重く受け止めています。でも、私は「ある精肉店のはなし」の上映を取り下げる判断はどうしてもできませんでした。「主戦場」の上映取り下げで、映画祭スタッフとして傷つき失望している方がいるだろう中で、さらに他の作品の上映が直前に取りやめになることは大きな打撃です。映画祭を実際動かしてきたのは、映画に何かしらの思いを持ってボランティアで準備に時間を費やしてきた方々です。その打撃と失望を思うと、上映取り下げという形での決意表明はできませんでした。この判断が最善かは、未だにわかりません。
でも、私なりにできる形で抗議を表明したいと思います。ノンデライコの大澤さんからご提案いただいたことで、10月30日に映画祭内でオープンマイクのイベントを呼びかけます。映画祭責任者と顔を突き合わせて、直接ことの経緯と現時点での見解を説明いただき、そしてどれほどの問題意識があるのかをこの目で見定めたいと思います。市民ボランティアの方、映画に関わる方、そして一般の方とご一緒に、この問題を共有し議論する場にしたい思います。そしてこの会期中に映画祭内での「主戦場」の上映を実現するためにはどうしたらいいのか具体的に考える場にしたいと思います。
纐纈あや(映画監督/やしほ映画社)
2019.10.29 Tue