先日公務非正規労働問題がNHKクローズアップ現代で取り上げられました。ようやく、と言うべきでしょう。もうかなり以前から市民生活をサポートする公共サービスの多くは不安定な身分と劣悪な労働条件で様々な形態の非正規労働者によって担われています。その大部分は女性です。
 増加する「臨時・非常勤職員の適正な任用・勤務条件を確保する」(総務省)ために、2017年の地方公務員法、及び地方自治法の一部改定により、2020年度から新たに導入されるのが「会計年度任用職員」です。しかしこれは今までの職務の担い手の賃金をさらに大幅に下げ、身分をさらに不安定にするものです。専門職としての消費生活相談員を19年にわたり担ってきた樫原節子さんのご投稿を掲載します。この問題は労働条件の切り下げとともに働く者の尊厳までも踏みにじる労働問題であると同時に市民サービス全般に影響する、私たちみんなに関わる問題だと思います。 
ぜひお読みください!          
                                                             WAN編集部




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会計年度任用職員と任期付き短時間職員と消費生活相談員 消費生活センター相談員 樫原節子
                        
             「わたしらは侮辱の中に生きています」(中野重治「春さきの風」より)

 自分の不明に心からの恥ずかしさと、このような制度を作った者と条件を提示してきた者へ腹からの怒りを持ってこの拙文を書く。

 私は、大阪府南部の地方都市の消費者センターで相談員として19年働いている。
 消費者センターは、物やサービスの契約・購入において、事業者と消費者の間で何らかのトラブルが起こったときに相談するところで、助言の他、斡旋と言って事業者と交渉することもある。中立の立場という限界はあるが、民間のトラブルに関わって相談者の被害回復に努めるという、行政では特異な部署だ。相談員は「消費生活専門相談員」の国家資格を持ち(この他、「消費生活アドバイザー」と「消費生活コンサルタント」という民間資格がある。相談員が主に自治体の消費者センターに勤務するのに対し、アドバイザーやコンサルタントは主に企業のお客様相談室に勤務する。これらの資格を重複して有している相談員は多い)、商品やサービス、法律の専門的知識が求められ、常にそれらはアップデートしなければならない。相談者への聞き取りや事業者との交渉には経験も熟練もいる。が、消費者センターに勤める相談員のほとんどが非常勤や臨時などの非正規で雇用され、1年ごとの更新か、数年での雇い止めも多く、待遇改善は、相談員にとって解決すべき問題で有り続けてきた。

 2017年、地方公務員法と地方自治法の一部が改正された。その主旨は、64万人と増加している「臨時・非常勤職員の適正な任用・勤務条件を確保すること」(総務省)となっている。2020年4月1日施行に向け、各自治体は条例や規制等の制定・改正に動いている。その「適正な任用・勤務条件の確保」とは何か。それは、特別職と臨時職員の絞込みをし、あとは全部新たに設けた「会計年度任用職員」(任用期間は1年。以下、任用職員)に移行させるというものだ。臨時職員は「常勤職に欠員が生じたとき」の一般職に限定され、特別職は「専門的な知識経験又は識見を有する者が就く職であって、当該知識経験又は指揮権に基づき、助言、調査、診断その他総務省令で定める事務を行うものに限る」となり、これによって特別職非常勤職員や一般職非常勤職員、臨時的任用職員といった形で雇用されてきた消費生活相談員の多くは「会計年度任用職員」に移行することになった。相談員は、国家資格を持ち、専門的な知識経験又は識見を有しているが、総務省の言うところの専門職ではないとされたのである。同様な判断をされたものには、看護師や保健師、ケアマネージャーがいる。(あ、全部女性が中心の職じゃん、とぱっと見て思う)。結果、任用方法は各自治体によるとはなっているものの、相談員の処遇は悪くなることはあっても良くなることはなくなった。特に任用期間については、例え同じ相談員を再度任用したとしても、それは全く新たな任用であって更新ではないということが総務省の資料には強調されており、雇い止めの問題については完全にスルーされた。私はまず以上のことに相談員が侮辱されたと感じ、強い怒りを覚える。現在、各自治体の相談員たちは、互いに情報交換もしながら、それぞれの職場で交渉している。

 ここまで、雇用されている相談員のことを書いてきたが、実は私は雇用されていない。全国の消費者センターで、どれだけの数・割合なのかは分からないが、大阪府下では南部、「泉州」と呼ばれる地域にあるいくつかの自治体で、相談員は1年ごとの「委嘱」契約をとっており、労働者ではなく、いわば請負業者のような位置づけになっている。従って、時給は大学の非常勤講師並みで臨時・非常勤職員で雇用されている相談員に比べて高いものの、昇給・賞与はもちろん(私は19年間のうち、3年前にセンター開設時間延長の際、1割時給が下がったことがあるだけである)、残業代や交通費、有給、各種保険などは一切ない。週1日~3日の勤務で(例外で月1回というところもある)、これは雇用されている相談員とあまり変わらない。私がセンターで働き始めた当時の職員の話によると、時給算出の参考にされたのは弁護士による法律相談(30分5千円)で、弁護士のような受任権や調査権がなく、消費者問題に限られた分野ではあるものの、相談員の専門性を考慮しての金額、ということだった。

 この「委託」契約で働いている大阪府の消費者センターでは、私が働いているセンターが一番早く来年度の条件を出してきた。「会計年度任用職員に移行する。勤務形態は今までどおり。交通費は出る。ボーナスは週3日働いている人は出る。有休はある。社会保険は無し。毎年公募するので、その度に採用試験を受けてもらう。時給はこれまでの半分もない。時給の算出根拠は、4年生大学新卒者の給料。」というものだった。聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。ここまで踏み倒されるものなのか、と思った。相談員の専門性も、19年間の経歴も実績も全て無視された。これが侮辱でなくて何なのか。さすがに納得できないと突っぱね、センター担当課の課長以下職員も「もう一度人事課と交渉する」と言って、一旦終わった。

 それから約一か月後、突然担当課から「説明したい」と言われた。課長以下の管理職と職員、前回と同じメンバーが並んで、相談員3人に説明があった。「任用職員については、時給はいくら頑張ってもこれだけしか出ないと人事課から言われた」と、時給額の提示があった。それは、今までの時給の半額より200円多い、というものだった。次に、「こちらのほうがいいと思います。」と提示されたのが、「任期付き短時間職員」(以下、任期付き職員)で、「有休をはじめ、保険や各種手当も付く。昇給もある。最大5年は公募なしで働ける。」が、「10時~17時の週5日勤務で、2人体制。」だという。「10時~17時の週5日勤務」は、ほぼフルタイムである。給与はいくらになるのかを聞いたが、控除前の額を勤務時間で除したらやはり現在の時給の半額以下になった。いくら手当てがつく、昇給もあると言われても、これは「今までの倍働いて、時給半額にする案」である。しかも1人は確実に職を失う。こっちのほうがいい、と言える根拠は何なんだ?と思う。また、「任期付き職員であれば、今まで週2日しか2人体制ではなかったセンターが、常時2人体制になって、センター拡充にもつながる」と、のたまう。「どっちかにしてください」と言わんばかりの様子であったが、返事は保留にして終わった。だが、前回と違って課長たちは、誰もこちらの反論や意見をメモすることはなかった。そして3回目の話し合いがあった。

 今度は私一人で勤務しているときだった。「相談員3人全員がそろっているときにしてほしい」といったが、「揃うときはなかなかないので、他の二人にはまた別に話をする」という。(あ、これって分断しようとしてる?と思う。)「前回の返事を聞きたい」ということだったが、しなかった。そもそも「任用職員」「任期付き職員」は、非常勤職員等で雇用されている相談員が対象であり、「委嘱」されている相談員は対象ではない、「任期付き職員」を3人の2人体制にしたらどういう条件になるのか、等々、意見を述べて終わった。この時、初回にも言われたことをあらためて言われた。「委嘱ということは、安くならないと話が出来ない」。これが市の本音だろう。「任用職員」が創設され、非常勤職員の消費生活相談員は任用職員に移行させろと総務省が名指しで言ってきたことに乗じて、時給の引き下げにかかったのだ。半額にしたところで、市の財政には大した効果はないだろう。だが、財政難の市はそれに飛びついたようだ。「我々が言っても、人事課が来年度からこうすると言ってきたら,どうしようもない」とも言われた。そうなのだ。2度目の説明の後、聴講生として参加させていただいていた大学のゼミの教授に相談し、お骨折りいただいてこの問題に詳しい労組の方とつながった。親身に相談に乗って下さり情報もいただいて、3度目の時はその情報を元に交渉した。が、「そもそも委嘱であって労働契約ではないのだから、交渉しない。」とあっさり切られる可能性は十分すぎるほどある。「委嘱」契約であるがゆえに労働者としての権利は何もなく、そういう働き方自体がむしろ問題だと言われてきたが、今、労働者にしてやるから条件を下げるというやり方には、心底腹が立ってくる。このこと自体、働く者への侮辱でなくてなんだろう。そして、「委嘱」であるがゆえに、任用職員等への移行はないのではないかと、タカをくくっていた自分自身の馬鹿さ加減が心底恥ずかしい。

 しかし、今でさえ相談員の公募をしても応募がないのに、「任用職員」や「任期付き職員」の条件ではもっと応募者は来ないのではないだろうか。その時は、消費者センターを閉めてしまうのだろうか。消費者安全法違反にはなるが、「相談員が来ないんだもん」と言ってしまえば、罰則もないので、それで済むかもしれない。それとも、近隣の自治体と一緒になって広域の消費者センターにして、民間委託にするかもしれない。そうなると、もっと相談員の労働条件は下がるだろう。気になるのは、近年相談員に定年退職後の男性が増えてきていることである。定年退職後の第2の職場として考えるのなら、「任用職員」でも「「任期付き職員」でも許容できるだろう。政府は70歳まで働けって言っているし(某人材派遣会社の代表者は90歳まで働く時代が来る、とまで言ったらしい)。

 消費生活相談員は、1970年代に各自治体で開かれた生活大学という講座を受講した比較的裕福なインテリ専業主婦を消費者相談の窓口に置いた事から始まったという。そういう起源であるためか、相談員だけでは経済的自立ができない職業で有り続けている。が、その先輩相談員たちは、相談員の地位向上を訴え続けてきた。食える職業にしたかったのだ。が、相談員が高齢男性の受け皿としての職業になっていくのだとしたら、食える職業になることは実現しないのではないだろうか。高齢者と女性が増えてきたタクシーの運転手と同じ様に。 最初の交渉の時に、「(市役所では)他の人も皆低い時給で働いている。看護師さんとか幼稚園の先生とか」と職員は言った。「それは、低いほうがおかしい。この際、皆底上げをされてはどうか」と返したが、看護師も幼稚園の先生も専門職だ。そして女性が中心の。みんな侮辱されてきたのだ。

 ただあがいているだけかもしれないような交渉を私はしている。この行動には反動も来るだろう。来年度、私は契約されないかもしれない。正直怖い。だが、黙っていたくはない。


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 各地の自治体で同様の動きが出ていると思われます。同様のご経験について、投稿をお待ちしています。WAN編集部
                      

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