舌を抜かれる女たち

著者:メアリー ビアード

晶文社( 2020-01-09 )


伊藤詩織さん民事裁判、東京医科大医学部入試、ネット上での女性有名人への暴言、強迫、誹謗中傷……。女を黙らせ、権力からは遠ざけておく、そんな魂胆が透けて見えるようなミソジニーの数々。
女性たちはおおやけの場で声を上げることを封じられ、発言力のある強い女性は忌み嫌われてきました。女性が選挙権をもつようになる以前のはなしではありません。政治や職場、SNSや家庭などのあらゆるレベルの場において、現在進行形で起きているゆがんだ現象です。

著者メアリー・ビアードは古代ギリシア・ローマの時代にまで遡り、いまだに残るゆがみのルーツを、文芸や美術を手がかりにしながら探っていきます。
強姦されたうえに、それを告発できないよう舌を切り取られた王女ピロメラ。魔力を持つために首を切り落とされたメドゥーサと、その彫像にコラージュされたヒラリー・クリントンにアンゲラ・メルケル。演説のなかで自分を男だと誇らしげに述べたエリザベス一世に、声を低くするボイス・トレーニングを受けていたマーガレット・サッチャー。 古今を縦横無尽に行き来しながら、現代まで脈々と受け継がれてしまった女性蔑視の構造をひも解きます。

本書は一般向けに公開されたジェンダー論の講演録。ガーディアン紙が選ぶ<21世紀の100冊>に選ばれました。やわらかい文体のなかに、鋭い指摘と冷静な分析、ピリッと刺激的なユーモアが詰まっています。胸のすくような痛快な語り口に引き込まれていくはずです。

#MeToo運動を受けて追記された二つめのあとがきでは、著者自身のレイプ体験に言及し、性被害の「語り」についても考えを巡らせています。「腐ったヒエラルキー」に対抗するために力を結集させ、問いつづけ考えつづける必要性を訴える一書。課題の多い現代を生きる女性たちへの力強いエールに満ちています。

――「権力とは何か、何のためのものか、その大小をどうやって測るべきか、そういうところから考えていかなければならない。別の言い方をすれば、女性が権力構造に完全には入り込めないのなら、女性ではなく、権力のほうを定義し直すべきなのです」(本文より)