女の本屋

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『日本型ワーキングプアの本質――多様性を包み込み活かす社会』大沢真知子

2010.06.27 Sun

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子供の貧困の増大や非正規労働者問題。その原点に戻っていくと、日本の社会システムにいきつく。男性が世帯主として経済的な責任を負い、女性は育児や家事のかたわら働く。それを前提とした労働市場が作られている。またみなが結婚し、子供を持つということを標準とした社会保障制度も作られている。

ところがいまこの前提が大きく変化している。非正規労働者は子育て世帯の男性世帯主にも広がっているし、家族の形も大きく変わっている。一人親世帯もふえている。また、将来的には一人暮らしが最多世帯になると予想されている。他方、日本経済をとりまく環境は大きく変わっている。経済のグローバル化のなかで企業の採用や雇用保障のあり方にも変化がみられる。

大きく変わった経済の環境。変わらぬ社会システム。この両者の結合によって、ワーキングプアが増大し、子供の貧困問題、所得分配の両極化、さらには年金制度の空洞化がおきている。

本書では、同じような問題に直面する韓国との比較を通じて日本の社会システムの特徴を浮き彫りにした。

閉塞感がただよう両国の社会にいま共通におきているのが市民社会の活性化だ。不当な差別に苦しむ労働者とともに権利獲得のために労働組合やNPOが立ち上がり社会を変えている。また、非正規と正規の壁をなくそうとする労働組合もあらわれている。韓国では、学生が非正規労働者とともに立ち上がることで、校内ではたらく非正規労働者の条件改善を実現した。

社会システムを変えるためには、まずわたしたちひとりひとりがいまの社会システムの問題に気づくこと。そこから変化がはじまるのではないか。また、長いあいだこの問題について研究してきた自分にはそれを書く責任があるのではないか。それが本書の執筆の動機である。
本書を手に取っていただければさいわいである。(大沢真知子)








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