今年もあの日がやってくる。
本来であればこの時期は様々な集会や講演会が盛りだくさんだ。
しかし今年は様相が異なる。
コロナウイルスが猛威を振い、中止や延期が続いているからだ。
そんな中、私はひとつのセミナーの講師を引き受けていた。
それは広島にある小さな島でのセミナーだった。
遡ること半年前、「広島でドイツの若者に話してもらえる人はいないか?」との問い合わせが舞い込んだ。
依頼主は日独平和フォーラムの楠さん。
私は婚姻をきっかけに、2000年から7年ほどドイツに居住していた。
家庭の事情により、当時7歳の娘を連れ、ドイツから福島に移住し、そこで原発事故に遭遇した。
我が家が被ばくを逃れ、関西へ移住したきっかけは、「日独協会」のメーリングリストへの投稿だった。
そこで情報を得られなければ、すぐに避難できず、さらなる被ばくを強いられていたに違いない。
避難元である福島と広島は、共に「核の被害地」であり、参加者は「娘と同世代の若者」。
であるならば、「広島で福島の核被害をドイツの若者に伝えたい」と、二つ返事でお引き受けしたのだった。
2020年3月、私は広島湾に浮かぶ似島(にのしま)に向かった。
セミナー会場である臨海少年自然の家は似島にあった。

広島から似島までは、フェリーで20分。
セミナーの受講者は、昨年9月から来日中のドイツ人の若者15名。
彼らは日独平和フォ-ラムと国際青少年社会奉仕会(IJGD)により、ドイツの青年社会奉仕制度のもと、日本でのボランティア活動に従事するため、中間研修を行なっていた。
臨海少年自然の家の扉を開けると、そこはドイツだった。
見渡す限り彫りの深い端正な顔だちの若者がズラリ。

与えられた時間は2時間。
前半は私の話であり、後半は質疑応答だった。
私は9年に及ぶ闘いを、1時間にギュッと濃縮し伝えた。
さて、どんな質問がくるのか?私はワクワクしながら会場を見渡した。
シーン・・・。
意外にもまったく手があがらない。
私は焦りを覚えた。
私の話が伝わらなかったのか?
しかし、私は思い出した。
ドイツ人に人見知りが少なくないことを。
であるならば、ウォーミングアップを図ろうと、私から彼らに矢継ぎ早に質問をした。
すると、どんどんと活発に手が上がるようになった。
彼らの口から次々と出てくるのは、「環境問題」だった。
とにかく環境問題にはめちゃくちゃ関心があるということがわかった。
そんな中、私は私が原告となっている原発賠償訴訟のチラシを配布した。
すると、「これについて僕らはどのように協力すればいいのか?」との質問が出た。
私は、「皆さんがボランティアされている場所で、私の話とともに、福島からの避難者が裁判してることを伝えて下さい。」と答えた。
配布したチラシへの対応にまで話が及ぶことに、私の胸は嬉しさでいっぱいになったものだった。
なぜ彼らはこうも政治や環境問題に関心があるのか?
どうしたら日本の若者も彼らのようにもっと関心を寄せるのか?
そもそも、ここに参加してる若者は、選ばれし若者であり、ドイツ人にも色々いるとはスタッフの声。
それでもやはり前のめりで耳を傾ける姿勢は、コロナ問題で下がりつつあった私のテンションを、一気に上昇させたものだった。
セミナー会場には若者とともに白髪のドイツ人がおられた。
彼の名はオイゲン・アイヒホルンさん、「日独平和フォーラム・ベルリン」会長である。
オイゲンさんは長年、ドイツと日本を往復し、日独平和の架け橋となり活躍されてきた。
そんなオイゲンさんから、「あなたが避難したことは正しい。ただ、がんばり過ぎないように。」 との言葉をかけていただいたことは、私に自信と心の安らぎをもたらしたものだった。
「前に生まれん者は後を導き、後に生まれん者は前を訪え、連続無窮にして、願わくは休止せざらしめんと欲す。」
私もまた「休止せざらしめん」と、後に生まれん者に伝え続けていきたいとあらためて大きな背中を見て思った。
2020年2月10日現在、東日本大震災による避難者数は47,737人。
2020年3月9日12時現在、日本国内における新型コロナウイルス感染者数は488人、クルーズ船内696人。
原発事故とコロナ、いずれも一刻も早く収束されることを切に願う。
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