新型コロナウイルスの流行は、3月末には山を迎えるとも言われていましたのに、その山場がどんどん先に延ばされて、ついに長期戦ということばも出てきました。

 まだしばらくは、不安に怯えながら粛々と付き合わなくてはならないかもしれません。人類の歴史よりも古い歴史を持つウイルスです。そのウイルスの子孫が何かのきっかけで新しい型となって活躍を始めた今、人間はそれに打ち勝つことも征服することもできません。人間も自然の一部分なのですから、同じ自然の仲間としてうまく付き合っていくしかないでしょう。

 それにしても、その付き合いのまずさの結果が誰にでも公平に降りかかってくるのであれば、まだ我慢もできます。みんなでこの危機を乗り切りましょうと言われれば、力を合わせなくてはという気にもなれます。でも、ウイルスとの付き合い方を具体的に決める人たちが判断した結果によって、不公平を蒙る人が出てくるのは困るのです。

 現在、いちばん悲惨な目に遭っているのは、子どもたちです。大人も困っていますが、大人はまだなんとか自分で食べるだけの知恵と力はあります。子どもは経済的に無力です。突然学校に来るなと言われて、それまでの日常生活ががらりと変わってしまった、毎日ふざけて遊んでいた友達とおしゃべりもできない、思い切り走り回った運動場にも入れない、大好きだった給食も食べられなくなる、そのショックたるや大変なはずです。ショックを受けていても、親も大変だと知っているから訴えることもしない……。

 わたしは給食がいちばん心配です。今まで毎日お昼になると、何かしら温かい食べ物にありつけていたのに、そして、先生や友だちと楽しく食べられたのに、今はどうしているのでしょう。近くのコンビニで、布製の小さな袋から硬貨を出してパンとお菓子のようなものを買っている10歳ぐらいの男の子を見かけました。袋に入れたお金を親から渡されて、お昼はあそこで買いなさいと言われてきた子でしょう。家に帰ってひとりでそれを食べるのでしょう。給食との落差の大きいこと! 

 でも、この子はまだいい方かもしれません。この騒ぎで仕事が維持できなくて、子どもの昼ご飯のことまで考える余裕のない親もいるかもしれません。ほんとに全部の子どもたちがお昼をきちんと食べられているのでしょうか。家から出るなと言われて運動もできず、きちんとお昼も食べていないとしたら、子どもたちの健康は保てるのでしょうか。ある先生は、修了式で久しぶりに会った子どもたちの体力低下に驚いたと言っています!

 ウイルス感染防止策として学校を閉鎖するとしても、子どもたちの心身の健康を保障してから実施してほしかったとつくづく思います。

 そして女性です。派遣で働いている女性たちが、このウイルスの感染拡大で辛く悔しい目にあっています。

 最初の例です。去年夏、前の仕事を失って、やむにやまれず人材派遣会社に登録した。商業施設の店舗で、販売員として2月末までの契約で働き始めた。契約満了時には次の仕事ができるようにすると派遣会社の担当員は言っていたが、2月末、派遣先が見つからないと雇い止めを言い渡された。新型コロナウイルスの感染の拡大で、企業が求人を絞っているからという。(『朝日新聞』3月22日)

 2番目の例です。派遣の旅行添乗員として働く女性。旅行会社のツアーが次々と中止になり、先月の収入は20万円ほどだったのが、今月は6万円ほどになりそう。携帯電話代や光熱費も払えるかどうかわからない。(『朝日新聞』3月28日)

 3番目です。ホテルに派遣され、寮に住み込んで働いていた。だが、ウイルス問題で予約のキャンセルが続き、ホテル側から「仕事を切り上げてほしい」と通告された。本来の契約期間よりも1か月近くも残して契約解除を言い渡された。住み込みなので、住むところから探さなければならない。『朝日新聞』3月28日)

 結局、派遣社員といういちばん不安定な働き手のところにしわ寄せがきているのです。雇い止めにあっているのは、女性だけではありません。男性も急に仕事を失って困っている人はいます。しかし、なんといっても、派遣で働いているのは男性より女性の方が圧倒的に多いのです。だから不本意なまま仕事を失ったり、収入が急激に減ってしまうという困った状況に追い込まれている女性も多いのです。

 大地震や台風のような災害のとき、避難所でセクハラを受けたのも、授乳スペースがなくて困ったのも、子どもがうるさいと非難されたのも、女性でした。そして、不自由な思いをしたのは赤ちゃんや子どもでした。

 何かことが起きると、まず、女性や子どもにしわ寄せがくるって不公平ではないですか。ことが起きたら、社会全体で苦しみや困難を分かち合うのが公平な社会ではないですか。

 女性と子どもがまっさきに不幸せになるというのは、これはもうコロナの問題ではなくて、政治の問題なのです。