前回の弁護団日記で佐藤倫子弁護士が紹介していた、東京医大の入学検定料等返還義務を認める判決は、当事者双方が控訴しなかったため、確定しました。今後、どのような手続が行われるのかなどの見通しについては、特定適格消費者団体のNPO法人「消費者機構日本」のHPに掲載されています。
今回は、弁護団の活動とはちょっと違う、弁護士としての活動について報告します。
国連から見えるブロークンチェア
◆女性差別撤廃委員会
2020年3月2日から6日まで、ジュネーブにある国際連合ヨーロッパ本部で、女性差別撤廃委員会の事前作業部会(pre-sessional working group)が行われました。
女性差別撤廃委員会は、女性差別撤廃条約17条に基づき設立された、国連の人権条約機関の一つです。内閣府男女共同参画局のHPによると、2020年2月時点では、女性差別撤廃条約の締約国数は189カ国です。もちろん日本も締結国であり、条約を履行する義務を負っています。
ちなみに、女性差別撤廃条約は、英語ではConvention on the Elimination of Discrimination against Women (CEDAW)ですが、日本政府訳では「女子差別撤廃条約」となっています。womenを女子と訳すのはなぜなのか、気になります。
女性差別撤廃委員会には、23人の委員がいます。現在、亜細亜大学の秋月弘子教授も委員の一人です。また、秋月先生の前には、林陽子弁護士も委員をされていて、2015年2月から1年間は委員長としてもご活躍されました。
◆審査手続
女性差別撤廃条約の締約国は、4年に1回、委員会に対し、この条約の実施のためにとった立法上,司法上,行政上その他の措置及びこれらの措置によりもたらされた進歩に関する報告や義務の履行の程度に影響を及ぼす要因及び障害を報告することになっています(18条)。日本も締約国として、これまでに複数回報告書を提出し、審査が行われました。
委員会は、提出された報告書の内容なども踏まえつつ、年に3回程度行われる会期において、審査対象となった締約国と個別の対話を行います。その後、それらの結果をもとに、総括所見(Concluding observations)という形で、今後締約国が取り組むべき課題などに関する委員会の見解が示されます。
審査の準備のため、締約国は報告書を事前に提出しますが、報告書には委員会が知りたい内容が必ずしも記載されているとは限らないため、委員会は、事前に質問事項を取りまとめ、審査までに締約国に回答してもらいます。
冒頭に書いた事前作業部会は、この質問リスト(list of Issues)を作成するために開催されました。
事前作業部会での検討結果は、会期終了後速やかに公表されたので、日本に対する事前質問リスト(lists of issues prior to reporting)も委員会のHPから見ることができます。質問事項の教育の項目では、医学部入試における女性差別の問題についても言及されていますので(パラグラフ16)、ぜひ確認してみてください。
ジュネーブの花時計
◆NGOはどのようにCEDAWの審査手続に関与するのか
では、このような審査手続に、NGOはどのように関与するのでしょうか。
日本で女性差別撤廃条約がきちんと履行されていれば、女性に対する様々な形での差別などはなくなっているはずですが、残念ながら、まだまだそのような状況にはありません。
NGOは、日本の女性差別の現状のうち、特に日本政府が報告したがらない事項、日本ではまだまだ女性に対する差別が立法上,司法上,行政上だけでなく、日常生活の様々な場面においても残っているという現状について、委員会に情報提供することで、日本の実態を理解してもらう、という役割を果たしています。
具体的には、事前質問リストに盛り込んでほしい項目、事前質問リストに対するNGO版の回答などを報告書として提出するなどしています。日本からも、様々なNGOが報告書を提出して、日本の現状についての情報提供を行っています。
NGOの一つである日本弁護士連合会(日弁連)も、事前質問リストに盛り込んでほしい項目についての報告書を作成し、提出しました。私も日弁連の委員会に設置されている女性差別撤廃条約PTのメンバーとして、年末年始にかけて、報告書の作成に取り組みました。日弁連以外にもたくさんのNGOが情報提供しており、いずれもHPに掲載されています。
また、事前作業部会や審査直前には、口頭での情報提供を行う機会もあります。
今回の事前作業部会でも、3月2日にNGOからの情報提供の機会が設けられました。事前質問リスト作成対象国のうち、アゼルバイジャン、ニカラグア、イエメン、ドイツ、日本、ウクライナのNGOがそれぞれ参加し、1時間(12時から13時)のうち、各国に10分ずつ割りあてられました。
日弁連からも2名の弁護士が参加し、私も、弁護団にも所属している板倉由実弁護士とともに、ジュネーブに行ってきました。
当日、会議室前で開始時間を待っていたところ、ウクライナからのNGO参加者に、日本語で声を掛けられました。Mariaさんという方で、日本に留学していたことがあるとのことでした。国際会議などに参加して、女性の権利の実現のために様々活動をしている世界各国のNGOの人たちと知り合えると、とても刺激を受け、勇気づけられます。
事前作業部会に参加した日本のNGOは、今回日弁連のみでしたので、板倉弁護士が10分という限られた時間をフルに活用して、日本の現状や質問リストに入れてほしい項目について報告しました。その中で、今回の医学部入試における女性差別の問題にも言及しました。
その後、各国ごとに委員からの質問がありました。質問のない国もあったのですが、日本担当のBerby委員(ノルウェー)は、非常に熱心にたくさんの質問をしてくれました。議長が「時間です(委員それぞれの質問時間は5分だったようです)」と言って止めなければ、もっと質問が続いていたと思います。閉会後も、Berby委員は私たちのところに来て、さらに個別に質問を続けてくれました。医学部入試の問題についても非常に関心を示してくれていたので、その結果、事前質問リストでも言及されたのだと思います。
スケジュールは未定ですが、今後、日本の審査が行われます。NGOとしても、審査に向けて委員会により詳しい情報提供を行い、また審査後は、総括所見の内容を広く知ってもらうとともに、その実現のための活動をすることが期待されています。
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