2010.08.04 Wed
タイトルにあるように、赤ちゃんの世界がどんなものなのかが知りたくて読んでみた。少し古い本だけれども、関係性という問題について考えるのに、とても示唆に満ちた内容が描かれていたと思う。
このなかで力説されているのは、赤ちゃんは無力な存在なのではなく、一つの大きな能力をもっているということだ。それは、「関係」に対して敏感な能力だと著者は言う。とくに「共鳴動作」の話がおもしろかった。共鳴動作とは、たとえば赤ちゃんをあやそうと大人が舌を出したりひっこめたりすると、赤ちゃんのほうも同じように舌を出してくる動きのことをさす。生まれて間もない赤ちゃんがこうした行為を自然にできてしまうこと自体、人間が最初から他者と関わって生きる存在であることの証なのだという。自我がまだ芽生えていない赤ちゃんにとっては、自と他を区別する垣根がなく、共鳴動作は(大人にはすでに難しくなっている)他者との融合でもある。共鳴動作は、まだ言語によるコミュニケーションが成立しない段階で、すでにわたしたちは応答しあうことができるということを意味しているのである。
自と他の哲学的な話は、まず最初に自我がありきで、そのうえで他者との関係性を構築することをめざそうとする。それは完全に自立した成人を出発点にした話だ。けれどもわたしたちは、経験的には自と他が融合し混在するような地点から出発している。最初に在るのは応答してくれる他者との関係性であり、人間は人とのつながりのなかで自我を成長させていく。赤ちゃんは大人の反応を楽しみ、大人もまた赤ちゃんの応答に喜んで応えようとする。そうすることを繰り返して、赤ちゃんは世界との関係を構築していく。世界を秩序あるものとして体験していく。
無力な存在として赤ちゃんをとらえがちだけれど、決してそうではないこと、小さくとも社会的存在としてこの世界に生まれおちてくるということに気づかせてくれるテクストだった。
(theta)
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