2010.09.04 Sat
日常生活のなかで、政治思想の伝統など意識することなどないけれど、本書を読めば、いかにソクラテス以降の2000年以上続く、長く重い伝統のなかで培われてきた「政治観」に、現在のわたしたちも囚われているかが実感できます。しかも、2000年以上前の哲学者ソクラテスが格闘しようとしていた、女=家庭の仕事を担う者=奴隷と市民の間の存在=二級市民、といった通念が、その後、政治思想上の規範として成立していく恐ろしい過程を、本書は克明に記しています。哲学や思想に関心がこれまでなかった方にも、いかに現在もなお男性中心の学問分野における、女性蔑視、本書の言葉でいえば、女性を身体的な機能でしか見ようとしない、その差別性を是非とも知ってもらいたい。とくに、18世紀フランス人権宣言の思想的支柱であったルソーには、本書では2章を割いているほど、徹底した批判の目が向けられています。
なぜ、自由と平等の思想家ルソーは、女性は「幼い時から自由を制限されるべき」で「娘たちのすべての自由奔放な想像を支配し、他人の意思に従うようにするために、最初から拘束しておかなければならない」などと言えたのか[本書124-5頁]。
おそらく、そうした問いは、わたしたち自身にも今なお向けられているはずです。
フェミニズムの古典(原著は1979年に出版)として、30年の時を超えてようやく翻訳された本書は、日本での政治思想におけるフェミニズムの非力さも表しているのでしょう。待ちに待たれた翻訳です!(moomin)