「1・57ショック」(1990年)から30年もの間、出生率が低迷している日本。当然の結果として、21世紀に入り人口減少が始まっている。家族社会学者である著者は、欧米人からは「なぜ日本は少子化対策をしてこなかったのか」と驚かれる。一方、アジアの国々の人からは「日本のようにならないためにはどうすればよいか」と聞かれる。日本を反面教師としようとしているのである。

本書は2018年に中国社会科学院という政府機関に依頼され行った報告に基づいている。著者は、日本の少子化対策が事実上失敗に終わっているのは、未婚者の心と現実に寄り添った調査、分析、政策提言ができていなかったからだと考えている。具体的には、欧米に固有の慣習や価値意識をモデルの前提にし、日本人に特徴的な傾向・意識、そして何より、若年層における経済的格差の拡大という状況の変化を考慮した対策をとってこなかったからだとする。本書では、日本の少子化対策の失敗の原因を分析・総括するとともに、日本特有の状況に沿った対策は可能なのかをさぐる。

子育てと仕事の両立支援策が進んだにもかかわらず、少子化が解消されないのはなぜか。これまでと現状を分析した結果、少子化問題の解決にはどこまでも悲観的な著者であるが、それでも、日本の多くの若者が条件さえ整えば子どもを持つことを希望している事実から考えて、どうしたらパートナーを持つことに前向きになれ、働くことに希望を持て、子どもを持つことへの不安が小さくなるのかを追求し続けることが必要と感じる。
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目次
はじめに――「子どもにつらい思いをさせたくない」日本人
第1章 日本の少子化対策の失敗
(1)世界で「反面教師化」する日本の少子化対策
(2)日本の「少子化対策失敗」の経緯 
第2章 日本の「少子化対策失敗」の理由
(1)日本の出生率を動かす人々は、誰なのか?
(2)少子化の直接の原因に関する「誤解と過ち」
   ①「未婚化が主因」であることを見逃したという過ち
   ②結婚や子育ての経済的側面をタブーにしていたという過ち
第3章 少子化対策における「欧米中心主義的発想」の陥穽
(1)欧米中心主義的発想とは
(2)欧米諸国の少子化の特徴
(3)欧米モデル適用の陥穽――欧米にあって日本にないもの
①「成人した子は自立する」という慣習――日本はパラサイト・シングルが多い
   ②「仕事は女性の自己実現だ」という意識――日本女性は仕事より消費生活
   ③恋愛感情(ロマンティック・ラブ)の重視――日本では恋愛は「リスク」
   ④「子育ては成人まで」という意識――日本は将来にわたり責任意識
第4章 「リスク回避と「世間体重視」の日本社会
             ――日本人特有の価値意識をさぐる
(1)「生涯にわたる生活設計」+「リスク回避意識」
(2)世間体意識――「人からのマイナス評価を避けようとする」意識
(3)強い子育てプレッシャー――子どもにつらい思いをさせたくない
第5章 日本で、有効な少子化対策はできるのか
(1)日本の少子化の根底にあるもの
(2)日本の少子化進展の見取り図
(3)有効な少子化対策とは?
あとがき 「新型コロナウイルス後」の家族

◆データ
書名 :日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?
著者名:山田昌弘
出版社:光文社(新書)
発行日:2020年5月30日
定価 :858円(税込)